Tamiyuki Kihara
[東京 24日 ロイター] - 高市早苗首相は今月の内閣改造に合わせ、全閣僚に指示書を手交した。2月に実施した衆院選直後の指示書と比較すると、新内閣が抱える課題が見えてくる。特に片山さつき財務相と城内実経済財政担当相には、前回の指示にはなかった新たな注文を加えた。指示書から透ける第2次高市改造内閣のキーワードは「市場」だ。
<「関係大臣にしっかりと指示をした」>
「債務残高対GDP(国内総生産)比を安定的に引き下げ、日本経済の力強い成長と財政の持続可能性を両立させる」。ロイターが確認した指示書によると、高市氏は全閣僚共通の指示としてこう強調した。「日本成長戦略」に掲げる17の戦略分野を中心とした「大胆かつ戦略的」な投資を推進することや、物価高への対応を「最優先課題」として位置付けつつ、財政規律への配慮も怠らない姿勢を明確にした形だ。
留任となった片山財務相と城内経財相に対しては、共通の新たな指示項目を追加。「責任ある積極財政」の考え方に基づく政権の経済財政運営について、「コミュニケーションの強化を通じ、市場の信認を確保」していくため、国民や国内外の市場関係者に「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」の内容を含め、「透明性高く、一貫した説明を行う」よう求めた。
実際、高市氏は内閣改造を終えた17日の記者会見でも同様の趣旨に言及し、「関係大臣にしっかりと指示をした」と強調。市場の信認確保が内閣共通の重要課題であり、一丸となって取り組む姿勢をアピールした。
<「そうあるべきと思っている」>
複数の政府関係者によると、「市場の信認」にこだわる高市氏が念頭に置くのは、今夏の「骨太ショック」の苦い経験だ。骨太の「原案」の段階で、前年まで明記されていた「財政健全化」の文字が消えたことや、日銀の独立性への配慮を巡る表現が後退したことなどが大きく報道され、更なる財政拡張への懸念から市場の金利や為替が神経質に反応した。
基本方針の策定に関わった経済官庁幹部は「市場の反応は想定外だった」と認めた上で、「一度付いてしまった印象を市場から払拭するのは容易ではない」と話す。今回の指示書で市場の信認を繰り返しアピールしたのも、財政拡張路線への市場の警戒感を和らげる狙いがある。
高市氏は17日の会見で記者団から長期金利の上昇について問われた際、「金利は様々な状況を背景に市場で決まるものだ」と述べた後、金融政策の具体的手法は日銀に委ねられていると強調した。その上で、あえて「そうあるべきと思っている」と付け加え、日銀による金融正常化への取り組みに否定的とされる自身のイメージを打ち消そうと配慮を見せた。
<「こうした考えに沿ってしっかりと」>
ただ、ある政府関係者は「首相の言葉やスローガンだけでは市場の信認は得られない」と指摘する。高市氏が掲げる各分野への投資が実際の経済成長につながるのか、財源としての国債発行規模がどの程度に膨らむのかなど、市場は具体的な「中身と数字」を注視しているという。
高市氏は内閣改造で、来秋の総裁選でライバルとなり得る閣僚や党役員を留任させ、「封じ込め」を図った。自民党内には「少なくとも次の総裁選では高市氏再選の可能性が高くなった」(党幹部)との見方がある一方、中長期的に支持率を維持するためには、市場の信認を損なわずに物価・金利の安定と経済成長を両立できるかが問われるとの声もある。
今回の指示書に示された方針が、2027年度当初予算案や来年以降の政権政策にどう反映されるのか。政権運営の安定性を左右する「市場との対話」が本格化する。
指示書で市場の信認確保を強調した意図について、木原稔官房長官は24日の記者会見で、ロイターの質問に対し、「責任ある積極財政」を実効あるものとするためには、必要な「危機管理投資」や「成長投資」を確保しつつ、歳出の質を高めることに加え、財政の持続可能性と市場の信認確保が不可欠だとの立場を説明。「今後の予算編成や税制改正作業においても、こうした考えに沿ってしっかりと取り組んでいきたいと考えている」と語った。
(鬼原民幸 編集:橋本浩)