<政治的な左右両派の「分断」を引き起こした9.11は、アメリカを徹底的に変えた分岐点だった>
2001年9月11日に発生した同時多発テロから今年で25年、四半世紀の時間が流れたことになります。時代を動かし始めたZ世代の多くにはこの事件の記憶はなく、事件が既に歴史の彼方に遠ざかりつつあるようにも見えます。一時期には9.11を陰謀だと述べていたトランプ氏が大統領になり、その支持者はアフガニスタン、イラク戦争は軍産共同体の共謀だと非難しています。また、イスラム系のマムダニ氏がニューヨーク市長になるなど、今のアメリカ社会は9.11の記憶を反映しなくなっているかのようにも見えます。
そうではあるのですが、2001年以降の25年間、アメリカに起きた政治的な動き、とりわけ左右両派などによる「分断」を考えると、やはりそのルーツはこの9.11という事件にあることは否定できません。そう考えると、やはり9.11はアメリカを徹底的に変えてしまったのだと強く感じます。
9.11以前のアメリカでは、国を挙げての軍事行動が起きると世論は比較的まとまって政府を支持することが多くありました。勿論、ベトナム戦争の末期は賛否が激しく分かれましたが、これは戦況の悪化と犠牲の多さを反映した例外でした。それ以外では、二度の世界大戦や湾岸戦争、コソボ紛争などについては、世論の多数は支持していたのです。
ところが9.11を受けた軍事行動については、被災地であったニューヨークなどでは、グローバル経済による繁栄を背景にした国際協調主義への支持があり、したがって感情に任せた報復戦争の実施には冷ややかでした。その一方で、被災地とは無関係の中西部や南部では、事件のショックが「草の根保守」という現象を生み出し、人々が続々と軍隊に志願していきました。その結果がブッシュ大統領によるアフガンとイラクでの戦争となったのです。
共和党と民主党の鋭い対立へ
例えば2004年に共和党がニューヨークで党大会を開催したところ、「草の根保守」に反発したニューヨーク市民が「カンザス州民はカンザス州へ帰れ」というデモを行って物議を醸すといった事件もありました。こうした対立は、現在、全米を苦しめている分断の一つの原点であると考えられます。
更に言えば、2000年代の中期には、アフガン戦争とイラク戦争の双方を進めた共和党と、アフガン戦争には一理あるがイラク戦争には反対だという民主党が鋭く対立しました。この対立は、イランに対する姿勢にも反映して、現在のイランに対する軍事行動への賛否が分かれる状況につながっています。
経済政策も9.11が大きな転換点になっています。9.11の被害と2つの反テロ戦争の遂行は、クリントン政権が実現した平和による繁栄を打ち砕きました。これに対してブッシュ政権は強引な景気回復策を取った結果、不動産市場が加熱してサブプライムローン残高が膨張。これが破綻したことで、2008年のリーマン・ショックが発生したといえます。
2009年に就任したオバマ政権は、中道左派の看板を掲げたものの実際は戦後最悪といわれた不況への対策に追われました。ちょうど、この時期は国際分業が進むと同時に、コンピュータによる事務や生産現場の省力化が進んだ時代でもありました。オバマ政権は、そんな中で、景気を緩やかに回復することを最優先にして現実的な政策を取り続けました。