Harry Robertson

[ロンドン 14日 ロイター] - 主要国で、インフレ調整後の借り入れコストを示す実質利回りが10年強ぶりの高水準に上昇している。人工知能(AI)企業と各国政府が債券発行を増やしているためで、株式市場や世界経済へのリスクが高まっている。

実質利回りは、債券投資家がインフレ率を上回って要求するリターンで、政府や企業にとっての実質的な借り入れコストを測る重要な指標だ。通常は、経済成長や金利の見通し、資金需給の予想などによって決まる。

インフレ連動債から算出される米30年物実質利回りは現在、約3%と18年ぶりの高水準に近づいている。英国とドイツの10年物実質利回りも、過去10年超で最高の水準付近で推移している。

投資家やアナリストによると、AI分野のハイパースケーラー(大規模クラウド事業者)と呼ばれる巨大テクノロジー企業の社債発行による資金調達が急増していることに加え、各国政府も引き続き大規模な財政支出を行っていることが、利回り上昇の主因だ。市場に大量の債券が流入するなか、投資家は債券を買い続ける上で、より高いリターンを求めるようになっている。

イランを巡る紛争が続いているにもかかわらず、インフレ期待はおおむね安定している。こうした状況下でこの数カ月、実質利回りの上昇で各国の名目利回りも上昇した。米財務省が13日に実施した30年債入札は最高落札利回りが5.22%と、2001年以来の高水準を付けた。

<債券発行ラッシュ>

アルファベット、アマゾン、メタ・プラットフォームズなどの大手テクノロジー企業は、今年に入ってからの合計の社債発行額がすでに約2200億ドルに達した。LSEGのデータによると、これは2025年通年の1080億ドルの2倍を超えている。

ブラックロック・インベストメント・インスティテュートの英国担当チーフ投資ストラテジスト、ビベック・ポール氏は「資本を巡る競争は、近年では例を見ないほど激しくなっている」と指摘。「AI関連の設備投資は一段と拡大し、資本不足という構図が加速しており、それが債券利回りに表れている」と述べた。

各国政府も巨額の借り入れを続けている。米国の財政赤字は今年、国内総生産(GDP)の約6%に当たる1兆9000億ドルに達する見通し。フランスはGDP比5%、英国は同4%の財政赤字になると予想されている。

ミラボー・アセット・マネジメントのシニア債券ポートフォリオマネジャー、アル・キャターモール氏は「欧州では、AIへの支出そのものよりも、防衛費、エネルギー安全保障、インフラ投資の方が重要な要因になっている」と述べた。

市場ではまた、先行きの金利上昇観測も織り込まれており、他の条件が変わらなければ、これは実質利回りを押し上げる方向に働く。

バークレイズの欧州金利ストラテジスト、マックス・キッツォン氏は、比較的堅調な経済成長、特に米国の力強い成長が重要な要因だと指摘。また、中央銀行がもはや債券買い入れを行っていないことにも言及した。中銀の債券買い入れは以前、利回りの上昇を抑制していた。

<株式市場は要注意>

実質利回りは、政府や企業にとってインフレ調整後の借り入れコストの基準となる。

例えば、ある債券の名目利回りが3%で、インフレ率が2%と予想されている場合、実質利回りは約1%だ。アナリストによると、これまで名目利回りを動かす主因はインフレ期待であることが多かったが、最近は実質利回りの上昇がより重要な要因になっている。

理論的には、実質利回りが上昇すると株式の相対的な魅力は低下する。投資家が債券から、より高い実質リターンを得られるようになる一方で、株式は利回りが上昇すると将来キャッシュフローの現在価値が低下するためだ。

ただ、これまでのところ、好調な企業決算や底堅い経済を背景に株価が過去最高値を更新するなか、株式市場ではこうした懸念が跳ね返されている。

JPモルガンはS&P総合500種株価指数構成企業の利益予想を引き上げた。また、LSEG・I/B/E/Sのデータによると、欧州の優良株企業の利益は2022年末以来最も速いペースで増加する見通しだ。

一方、サトリ・インサイツ創業者のマット・キング氏はより慎重な見方を示している。大手テクノロジー企業は手元資金を急速に消費しており、今後は借り入れへの依存を強めると予想。その段階になれば、実質利回りの上昇による負担が企業に重くのしかかるとみている。

キング氏は顧客向けノートで「実質利回りは、その押し上げ要因となってきた借り入れと、株式相場の上昇を支えてきたリスク資産への資金循環が抑え込まれるまで、上昇を続けると予想している」と述べた。

インフレ調整後の借り入れコストがさらに上昇すれば、ある段階で企業や家計が消費や投資を減らし、経済成長が鈍化する可能性もある。

ニューバーガーの最高投資責任者(CIO)、アショク・バティア氏によると、米国の実質利回りは依然、同氏が経済成長への影響が出始めるとみている3-4%の水準に達していない。「しかし、今の水準は警戒すべきシグナルであり、現在1.5―2%で推移している堅調な経済成長が、脅かされ始める可能性があることを示している」と指摘した。

バティア氏は、財政政策への懸念から長期債に慎重な姿勢を取っている。一方、バークレイズのキッツォン氏は、政治家は財政赤字の削減に向けた意欲が乏しく、実質利回りは今後も上昇する可能性があると見ている。「利回り上昇を支える構造的要因は依然として存在している。こうした要因が近いうちに消えると考える理由はない」という。

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