手狭なアパートでは、1ガロン約38ドル(約6057円)でガソリンが売られている。レゲトン音楽を背景に、有名モデルがインスタグラムでディーゼル油を宣伝する例もある。フィデル・カストロ氏による革命から60年以上を経て、キューバの国家管理下にあるエネルギー部門に、資本主義的な動きが突然広がり始めた。
米国による厳しい対キューバ石油禁輸措置の中でも、キューバの民間企業向けの燃料輸出を認める例外規定が存在する。この例外規定をきっかけに、混乱した闇市場が生まれ、革命以来、国家が厳格に管理してきたエネルギー分野に民間取引が入り込み始めた。
キューバの伝統的な石油供給国であるベネズエラとメキシコからの輸出は、トランプ米大統領が今年1月に南米ベネズエラのマドゥロ大統領(当時)を拘束し、大統領の座から引きずり下ろしてから突然途絶えた。米沿岸警備隊はキューバ沖を巡視し、制裁や警告によって多くのタンカーは出航さえためらう状況になった。
禁輸措置は医療制度や公共交通機関、学校など国家運営の重要サービスに深刻な打撃を与えている。ただ、米商務省の例外規定により、少量ながらガソリンやディーゼルが民間のレストラン、小売店、タクシー事業者へ流入。これは革命後にカストロ政権が製油所を国有化して以来、初めて本格的に米国産燃料がキューバへ持ち込まれた事例とみられる。
ロイターは、キューバ向けに燃料を輸送している米企業を特定できなかった。ただ、大手石油商社が関与している形跡はない。
輸入された燃料の一部は闇市場で転売され、購入できる人々は車や家庭用発電機の燃料を確保している。公共交通の崩壊や計画停電の影響を和らげるほか、家庭用ポンプを動かすことで、機能不全に陥りつつある水道供給システムの支えにもなっている。
一方、この例外措置は一定の救済策となる半面、所得格差をさらに広げている。
7月のある午後、アマリリス・サンチェスさん(53)は首都ハバナのバス停で数時間待っていた。娘の誕生日を祝った後、自宅に戻る路線バスが来る見込みはほとんどないと感じていた。
通りの向かいにいた数十人のタクシー運転手の一人、イスマエル・コウティーニョさんはサンチェスさんを送ることはできると言ったが、料金は1000ペソ。通常2ペソのバス運賃の500倍に上る。背景にあるのは、闇市場で高騰したガソリンやディーゼルの価格だ。
定職を持たず、そんな金額を到底支払えないサンチェスさんは日が暮れるまで待ち、それでもバスが来なければ娘の家に泊まった上で、翌日に再びバスを待つつもりだと語った。