シンガポールでメイドさんを雇うことを考えれば、専業主婦として家事・育児を担っている方々は少なくとも年間100万円分以上の仕事をしていると言えるのではないか。

子どもたちも、メイドさんがいると放っぽりだしがちだった食器や洗濯ものなどを自分で片づけるようになり、家族の家事のお手伝いをしてくれたときには30セントのお小遣いをあげるようにした。メイドさんという働き方に一度助けられ、それに対価を支払うという経験をしたことにより、わが家で家事は有償労働に昇格したわけだ。

もう1つは、家事というのは人によってやり方が異なり、「言わなくてもわかってよ」というレベルの「やってほしいこと」も山のようにあるということ。これまで夫に対して「どうしてわかってくれないんだろう」と感じていたことは、メイドさんが来ることによって「逐一言わないと基本的には人には伝わらない」ということもわかった。

取材した家庭の中には、メイドを5年以上雇ってやめて「家族のきずなが強まった」「子どものしつけにちゃんと向き合うようになった」と、気づきを得たというケースもあった。家事を一度外に切り出してみることで、客観視でき、学ぶことは多い。

さて、日本でのメイド活用についてだが、そもそも住居のつくりや法制度上からも、住み込みはなかなかにハードルが高い。ただ住み込みでなくても、昨今は安価で多様な選択肢の中から時間単位などで家事代行のサービスを選べるようになってきている。家事代行は住み込みによるお互いにとってのストレスがなく、サービスを利用できる点でメリットも大きい。

もちろんワンオペ育児をしていれば、毎日少しずつ、朝の支度、ちょっとした洗い物、夜の寝る前の数時間のバタバタを誰かに手伝ってほしい!と悲鳴をあげたくもなる。しかし、とにかく手が欲しい!と思う共働き家庭の叫びも、1人何役もこなす専業主婦も、まずは、夫婦の両方が長時間労働をしなくてすむ社会であれば、つかむべき「手」はまずは家庭内にあるはずだ。

国や都市によっては公的に預ける場所があまりになかったり「家庭で育てる」ことを重視する言説が広まっているゆえに、メイド文化がやむをえず広まったというケースもある(参照:Shellee Colen, 1995'"Like a Mother to Them":Stratified Reproduction and West Indian Childcare Workers and Employers in New York')。もちろん良好な関係を築き、メイドさんと支え合っている形もシンガポールではよく見るのだが、本来的には家事・育児で悲鳴を上げなくても済むようにするには、社会全体で子育てしていく考え方がもっと広まることも重要だろう。

※当記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。
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