Samia Nakhoul
[ベイルート 14日 ロイター] - イランはホルムズ海峡の通航遮断に続き、最も危険なカードを切る構えを見せている。イエメンに拠点を置く同盟勢力の武装組織「フーシ派」を利用して紅海の入り口であるバベルマンデブ海峡を封鎖し、新たな対米戦線を開くと同時に世界の最重要エネルギー大動脈のうち2つを危機にさらそうとしている。
米国によるイラン国内への攻撃が激化し、それに呼応してフーシ派の攻撃も拡大している。複数の専門家は、イランが紛争を拡大させ、世界の貿易とエネルギー供給への脅威をペルシャ湾岸地域以外にも広げることで、米国への圧力を強めようとしていると指摘する。
イランは既にホルムズ海峡の通航を妨害することで、自国の最も価値ある戦略的資産の力を誇示している。そして今、第2の圧力地点としてバベルマンデブ海峡を活用する準備が整ったようだ。同海峡は紅海とアデン湾を結ぶ狭い水路で、サウジアラビアの石油輸出や世界の商品輸送の相当部分が通過する。
イラン国営放送が運営する国際ニュースチャンネル「プレスTV」のウェブサイトの報道によると、イエメンのあるフーシ派幹部は13日、サウジがイエメンへの攻撃を継続すれば、バベルマンデブ海峡を封鎖する用意があると表明した。
この幹部は、米国がサウジをそそのかしてイエメンを攻撃させていると主張し、そのような挑発は決して米国の利益にはならないと述べるとともに「現在の状況が悪化すれば、バベルマンデブ海峡とホルムズ海峡は共同作戦として封鎖されるだろう。そうなれば原油価格は凄まじいショックの中で1バレル=200ドルまで跳ね上がるだろう」と警告した。
専門家の見立てでは、ホルムズ海峡がイランにとって最強の戦略的「駒」だとすれば、バベルマンデブ海峡は最後の主要な「予備戦力」になり得る。
中東研究者のファワズ・ゲルゲス氏はロイターに「イランは徹底的にやるつもりだ」と語った。
同氏によれば、イランは米国に対して、ホルムズとバベルマンデブという2つの要衝(チョークポイント)を同時に脅かせることを示しており、紛争を二国間の対立から、世界のエネルギー貿易を支える航路への挑戦へと変貌させている。
「現在(イランは)近隣と遠方の両方で事態をエスカレートさせている。ホルムズ海峡だけでなく、バベルマンデブ海峡も危険にさらされているとのメッセージだ」という。
<なし崩し的拡大>
専門家は、危険なのは全面戦争への即時の逆戻りというよりも、双方が直接対決に踏み込まないまま、対立の「なし崩し的な拡大」がゆっくりと、しかし容赦なく進むことだとみている。
貿易とエネルギー供給への脅威が高まる中、世界で最も重要な2つのエネルギー輸送路が戦場と化す前に、米国とイランを交渉の席に戻らせる圧力が強まる可能性もある。
米国の元中東和平交渉担当者のデニス・ロス氏は、米政府の視点から「問題なのは、イランの考え方をどのように変えれば、彼らが再び交渉に戻り、しかも単に話をするだけでなく、受け入れ可能な合意を実際にまとめる気になるかだ」と述べた。
<フーシ派はどう動くか>
フーシ派は既に、バベルマンデブ海峡を通じて世界の商業を麻痺させられることを証明している。2023年10月にパレスチナ自治区ガザでイスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が始まって以降、フーシ派はイスラエル関連船舶を標的にすると主張し、紅海で商船への攻撃を開始した。
この軍事行動により、主要な海運会社は船舶をアフリカ南端へ迂回させることを余儀なくされ、輸送コストが上昇。その後米国と英国によるフーシ派への空爆や、船舶を保護するための多国籍海軍任務が展開される事態となった。
キングス・カレッジ・ロンドンの安全保障学部で上級講師を務めるアンドレアス・クリーク氏は、今回のフーシ派の脅威を、ホルムズ海峡に続くイランにとっての「もう一つの核の選択肢(最終手段)」と表現。イスラム革命防衛隊が全面戦争への回帰が避けられないと判断した場合にのみ展開されるとの見方を示した。
しかしクリーク氏は、もし米国がイランの重要インフラへの攻撃を強化すれば、イランはフーシ派を利用してバベルマンデブ海峡を封鎖することで対抗し、ホルムズ海峡を巡る情勢によって既に生じている経済的ショックをさらに増幅させかねないと警鐘を鳴らす。
一方でサウジに拠点を置く湾岸研究センターの会長、アブドゥルアズィーズ・サガール氏は、フーシ派はバベルマンデブ海峡の通航を妨害する能力を保持しているが、イランからの明確な指示なしに事態をエスカレートさせる公算は乏しいと分析。またフーシ派が海運を脅かそうとすれば、米国とそのパートナー国によるより広範な軍事対応を招く可能性があると付け加えた。