Takahiko Wada Takaya Yamaguchi Kentaro Sugiyama

[東京 15日 ロイター] - 2016年1月、金融市場が波乱の幕開けとなる中、日銀は物価目標の達成時期が一段と先送りになることを警戒してマイナス金利の導入を決めた。しかし、効果に対する懐疑的な見方や副作用への懸念から票決は5対4と1票差だった。マイナス金利導入後も円高が続き、物価目標の実現がさらに遠くなる中、審議委員からは政策枠組みの見直しを求める声が出始めた。日銀が15日、16年上半期の決定会合の議事録を公表した。(肩書は当時)

16年1月4日、中国の景気悪化懸念から上海株が急落すると世界同時株安に発展。前年からの原油価格の急落も止まらず、外為市場では円高が一段と進んだ。1月の金融政策決定会合で、黒田東彦総裁は金融市場の不安定な動きを踏まえ「企業コンフィデンスの改善や人々のデフレマインドの転換が遅延し、物価の基調に悪影響を及ぼすリスクが増大している」と述べた。岩田規久男副総裁は「今回、適切な金融政策を講じない限り、2%の達成時期はさらに後ずれするリスクがある」と警戒感を示した。

総裁の指示で、内田真一企画局長が追加緩和策として、従来の「量的・質的金融緩和」の枠組みの下でマネタリーベースや資産買い入れのペースを増やす案と、マイナス金利を導入する案を提示。しかし、マイナス金利導入案を巡って、ボードメンバーの意見は真っ二つに分かれた。

白井さゆり委員、石田浩二委員、佐藤健裕委員、木内登英委員はマイナス金利の導入に反対を表明。白井委員、石田委員、佐藤委員は追加緩和自体、必要ないと主張した。

白井委員は「わが国経済の実体と物価の基調は悪化しておらず、金融緩和度合いからみて追加緩和を正当化する理由は見当たらない」と指摘。内田企画局長が説明したマイナス金利導入の枠組みも「中身が十分に詰められていないように思う」などと述べた。石田委員は、マイナス金利を導入してイールドカーブ全体をさらに引き下げても、例えばCPの発行金利が「さらに下がる余地は乏しい」と指摘した。

佐藤委員は金融機関の経営悪化に警戒感を示した。マイナス金利導入で新規貸出金利が一段と低下する一方で、預金取り扱い金融機関が預金金利をマイナスにすることは容易ではなく、預貸金利ざやは縮小の方向になるだろうと指摘。有価証券運用利回りの低下とともに、リスクに見合ったマージンの確保を阻害し「やや長い目でみて金融機関経営、ひいてはシステムの安定性を脅かす」と語った。

木内委員は、黒田総裁が付利金利の引き下げを強く否定してきた経緯にも言及した。マイナス金利を導入すれば金融市場に大きなサプライズとなり、「一時的に市場価格に相当の影響を与えることが見込まれる」ものの、否定してきた経緯があるだけに「市場との対話という観点からは大きな問題になり、本行の信認にも悪影響を与える」と述べた。

正副総裁はマイナス金利の導入を支持した。黒田総裁はマイナス金利導入によって「実質金利がイールドカーブ全体にわたって低下し、またポートフォリオリバランスも進むことによって、消費や投資をさらに刺激し経済をより力強いものにして、2%の物価安定目標を早期に実現するという目標に向けた努力を強化するであろう」と意義を強調した。

中曽宏副総裁は、国債買い入れを増額して「量」を増やすだけでは打ち止め感が強まる可能性があるとして、これまでの量的・質的金融緩和にマイナス金利という「新たな要素」が加われば、量・質・金利の「3つの次元で、追加緩和の余地が十分にあることを示すことが可能となる」と話した。岩田副総裁は「マイナス金利は金融機関の収益を多少なりとも引き下げる可能性があるが、金融機関の経営を最終的に好転させるためにも、できるだけ早くデフレから脱却し、20年間も続いている低金利環境から脱却することが不可欠」と話した。

正副総裁に原田泰委員、布野幸利委員が同調したことで票決は5対4、1票差でマイナス金利の導入が決まった。

「サプライズ」のマイナス金利導入でイールドカーブ全体がフラット化する一方で、株価はさらに下がり、円高が進んだ。日銀は4月の決定会合で取りまとめた展望リポートでも物価目標の実現時期を「2017年度前半頃」から、「2017年度中」に先送りした。岩田副総裁は6月の決定会合で「仮にこれ以上2%達成時期が遅れる蓋然性が高くなる場合には、追加緩和により、日本銀行が2017年度中の2%達成にコミットしていることを人々とマーケットに強く示す必要がある」と踏み込んだ。

マイナス金利付き量的・質的金融緩和(QQE)に反対した委員の中からは、金融緩和の枠組みを見直すべきだとの声が出始める。3月会合では、石田委員が「QQEも3年経過し、2%の物価安定目標の達成までまだ先がある状況のもとで、大きな困難を伴うとは言え、今後、政策枠組みの再構築を図っていく必要があると思う」と述べた。4月会合では、佐藤委員が「マイナス金利政策のもとで、市場の価格形成面での様々な歪みや買い入れの限界が一段と露呈しつつある」と指摘。「物価安定の目標の解釈の柔軟化と併せ、資産買い入れの運営の柔軟化を図ることを検討する時期に差しかかってきている」と述べた。

日銀がイールドカーブ・コントロール(YCC)導入を決めるのは同年9月のことだ。

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