気候変動が広げる分断
情報操作は、社会にゼロから亀裂を作るわけではない。既にある亀裂を見つけ、そこを広げて使う。欧州対外活動庁(EEAS)は、外国による情報操作・干渉(FIMI)を、意図的かつ組織的に行われる操作的な行動様式と定義し、ロシアがそれを使って長く「社会に分断を蒔いてきた」と指摘する。
数えられた事案は、2023年11月からの1年間だけで505件、90か国に及ぶ。だとすれば、社会の分断を進めるものは何であれ、情報操作に手を貸すことになる。そして気候変動が、分断を二つの方法で静かに押し広げる。
一つは、人の移動である。世界銀行は2021年9月の報告で、気候変動により2050年までに六つの地域で最大2億1,600万人が自国内での移動を強いられる可能性があると推計した。
地域別の内訳は、サハラ以南アフリカが8,600万人、東アジアと太平洋が4,900万人、南アジアが4,000万人などである。欧州議会の調査部門によれば、この数はドイツ、フランス、イタリアの人口を合わせた規模を上回る。
しかも、これはあくまで国内移動の推計にとどまる。同じ調査部門は、気候を理由に国境を越える人が増えつつあり、欧州は北米と並ぶ主要な行き先になりうると指摘する。とりわけ、気候変動に弱い中東と北アフリカは、いわば「欧州の玄関口」にあたる。
大量の越境移動は、受け入れ地域で資源や社会基盤をめぐる対立を招きやすく、専門家はこれを大きな地政学的リスクと呼ぶ。移動する人々の存在は、しばしば政治的な対立の火種になる。
EUの対テロ調整官が2024年1月30日にまとめた文書は、気候変動が右翼過激主義の論理に組み込まれつつあると警告し、環境を掲げる過激思想(エコファシズム)が、豊かな北側の白人が南側からの移民に「置き換えられる」とする「大置換(グレート・リプレイスメント)」陰謀論と結びつく例を挙げた。気候がもたらす人の移動が、排外的な物語の燃料にされている。