専門家の推計によると、船舶と衝突して死ぬクジラは世界で年間約2万頭に上る。これは世界の研究で広く引用されている数字だが、実際よりも大幅に少なく見積もられている可能性が大きい。
船に衝突したクジラは海の底へ沈み、海岸に漂着したり港に運ばれたりして検査できないことも多い。結果として、船舶との衝突は世界中で大型クジラの筆頭死因の一つと認識されているにもかかわらず、実態を把握するのは難しい。
海洋哺乳類に詳しいブリティッシュ・コロンビア大学のアンドルー・トライツ教授は本誌の取材にこう語った。「船舶との衝突は今や世界中の大型クジラの筆頭死因の一つであり、そのリスクは高まる一方だ」「クジラが餌を求めて回遊するのと同じ海域を航行する船舶は増え続けている。そうした重なりの拡大こそが、問題の核心だ」
この問題は、世界の海上輸送の増大に伴い深刻化している。世界の貿易の約90%は海上輸送が担っており、クジラの生息域や回遊ルートと航路が重なる海域は増大の一途にある。
海洋保護団体オセアナのギブ・ブローガンは本誌に対し、クジラの生息域の92%を船舶が航行していると指摘した。それにもかかわらず、クジラとの衝突リスクを減らす対策が講じられているのは、リスクが高い海域の7%に満たないという。
アメリカ政府の専門家によると、船舶と海洋生物が遭遇する場所はどこであれ、衝突事故が発生する可能性がある。しかしクジラが餌を食べたり回遊したりする場所と、船の往来が多い航路が重なる場所では最も危険が大きく、規制が徹底されている海域でさえも危険は残る。