6月17日、イランとアメリカが戦闘終結に向けた覚書に署名し、世界の石油の5分の1が通過するホルムズ海峡の通航が再開される見通しとなった。
暫定和平合意の発表に原油市場は即座に反応。北米のガソリン価格を記録的水準に押し上げていた原油価格は、すぐに下落した。だが世界のサプライチェーンが回復するには、1年近くかかるとみられる。またガソリン価格の低下は、原油ほど速やかに進まないかもしれない。
海峡の封鎖が始まったのは、アメリカとイスラエルがイランへの攻撃を実施した2月28日のこと。イランが報復措置として船舶を攻撃し機雷を敷設したため、商船は事実上ホルムズ海峡を通航できなくなった。
海峡を通る船の数は平時の1日100隻から、最も少ないときには6隻にまで落ち込んだ。一時は1500隻を超える商船が海峡とその周辺海域で足止めされ、世界的エネルギー危機を引き起こした。
サプライチェーンは政治とは異なる時間軸で動く。海峡再開後、船が比較的早くペルシャ湾を出られるとしても、自社の航路ネットワークが完全に正常化するには少なくとも6週間かかると、ドイツの海運大手ハパグロイドは予想する。
ホルムズ海峡再開でも残る「物流の渋滞」
だがこの見通しは甘いかもしれない。正常な航行に必要な条件はまだ整っておらず、船舶の滞留が解消され、往来が紛争前の水準に戻る時期についても見方は分かれている。
ホルムズ海峡はイランが封鎖を宣言する前から、実質的には保険会社が封鎖していた。紛争前に船舶価値の0.25%だった戦争危険保険料は3〜8%に跳ね上がり、タンカーが同海峡を1回通るだけで800万ドルの保険料が発生し得る。
機雷の除去が保険料引き下げの前提条件だが、作業には最長6カ月かかるかもしれない。海峡の通航コストは当面高止まりするだろう。また海峡が開放されても混雑は中継港に移るだけで、解消されない。
海峡を出る船はドバイのジェベル・アリ、スリランカのコロンボ、シンガポール、マレーシアのタンジュンペラパスといった中継港で貨物を積み替える。
停泊場所やクレーン、地方港に貨物を振り分ける輸送網が必要だが、これらの中継港はホルムズ海峡を迂回する貨物を受け入れてきたため、通常以上の負荷がかかっている。そこにホルムズ海峡の貨物が押し寄せれば、コンテナ輸送網ではさらなる遅延が起きるだろう。
高速道路の事故をイメージしてほしい。事故現場が片付いて車列が動き始めても、次のインターチェンジや出口で新たな渋滞が発生する。
二次的混雑の解消を分析した研究はまだないが、港の処理能力やホルムズ海峡から出ていく船の数を考えれば、世界の中継港が正常に戻るには3〜4カ月かかりそうだ。
封鎖による混乱は航路にも及んだ。2月にイランへの攻撃が始まると、スエズ運河を通る予定だった船の多くが数時間後には喜望峰回りへとルートを変更した。3月初旬には世界最大級のコンテナ海運会社4社──APモラー・マースク、MSC、CMA CGM、ハパグロイド──がホルムズ海峡の通航を停止した。
緊張が緩和されても、こうした船が直ちにホルムズ海峡に戻るわけではない。海運会社の多くは喜望峰ルートを前提に運航、契約、船舶の配置、燃料調達の計画を組み直しており、元に戻すには時間がかかる。
航路の変更が容易でないことは、過去の例からも分かる。25年11月に、イエメンのシーア派武装組織フーシ派は紅海を通る商船の攻撃をやめる方針を示した。だが9月の最後の攻撃から100日がたっても、スエズ運河の通航量は危機が起きる前の水準を60%下回っていた。
コンテナの偏在も問題だ。通常、コンテナの配置は綿密に管理されている。貨物を積んだコンテナが出発すれば、空のコンテナがスケジュールどおりに戻る。こうして必要な数のコンテナが必要な場所に配置されるようになっている。
海峡封鎖はこの循環を断ち切った。貨物を積んだコンテナがペルシャ湾で立ち往生し、空のコンテナがコロンボやヨーロッパの中継港で滞留した。そのうえ喜望峰を経由した船舶のコンテナが、ヨーロッパの港にさらに積み上がった。
こうしてバランスが崩れ、現在アジアの港では貨物を積むための空コンテナが不足する一方で、ヨーロッパの港にはアジアからの貨物を待つ空コンテナがあふれている。海峡封鎖に影響を受けたコンテナは、世界で200万個に上るとされる。
そもそもホルムズ海峡が封鎖された時点で、物流システムは完全にバランスの取れた状態にはなかった。3~5カ月で一定の改善は期待できるが、危機前の状態に戻るには9~12カ月を要するかもしれない。

Estimated recovery timeline after the Strait of Hormuz reopens in weeks. Solid bars show best estimates, lighter extensions indicate uncertainty ranges. Start times reflect dependencies between mine clearance, insurance normalization and freight recovery. (Behrouz Bakhtiari), CC BY
政府関係者や物流業界のリーダーは、政治的な緊張緩和とともに滞留が自然に解消すると期待するべきではない。保険料の正常化は現場の状況改善よりも数カ月遅れる。喜望峰ルートに迂回した貨物はスエズ運河・紅海ルートに戻す必要があるが、そのプロセスは時間がかかり、また限定的なものになるだろう。
コンテナの偏在を是正し、中継港の二次的混雑も解消しなければならない。もともとコロナ禍で疲弊していたところへ海峡封鎖の打撃を受けた世界のサプライチェーンの復旧は、まだ始まったばかりだ。
「停戦」の見出しがニュースから消える頃には物流コストも正常化すると見込んで事業計画を立てている企業は、考え直したほうがいい。正常化には何カ月もかかるのだから。
Behrouz Bakhtiari, Assistant Professor, Operations Management, McMaster University
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