けれど、97年のアジア通貨危機への対応のまずさや、98年にスキャンダルな内容を含む『アンワルが首相になれない50の理由』が出版されたことなどから失脚。同性愛容疑で計9年服役するなど苛酷な運命に遭いつつも、18年に下院補欠選挙で圧勝して政界に復帰しました。
「マレーシアは長年にわたり言語や文化、システムの垣根を越え活動してきた貿易国家です。すでに半導体のサプライチェーンに参加しており、2030年までにAI国家になることを目指しています」
講演で語られたように、アンワル首相就任後の国家戦略でとくに注目されているものが、25年7月に発表された「第13次マレーシア計画(経済開発5か年計画2026~2030)」です。
計画には「30年にマレーシアを包摂的で持続的なAI国家としたい」と記され、具体策として「投資と政策を活用したデジタルエコシステムの強化」「DXとR&Dの商用化を促進」「国家AI行動計画の策定」などが挙げられています。さらに「5Gの人口カバレッジ98%」「デジタル関連の就業50万人」「デジタル起業家を5,000人増加」「デジタル経済のGDPへの寄与率を30%」といった目標数値も明文化されています。
半導体の「後工程」を担うことで存在感
実際に近年、マレーシアのジョホール州には、グーグルやマイクロソフト、NVIDIAなど、世界に名だたるテック企業のデータセンターが進出しています。そこには、アメリカのシリコンバレーのような「AI開発研究のホットスポット」の華々しさを目指すのではなく、地の利を活かして「膨大なデータ処理をする場」を提供し「AI産業の縁の下の力持ち」としての役割を果たすという堅実な戦略が見て取れ、大規模な投資を呼び込んでいます。
このような実利的な戦略を取れた背景には、マレーシアが過去数十年にわたって半導体市場で重要な役割を果たし、成功を収めていることがあります。
たとえばペナン島周辺には半導体パッケージメーカーのイナリ・アメルトロン、半導体テストメーカーであるMPIなどの工場が集まっています。半導体の研究開発ではなく、組み立てや検査といった「後工程」を担うことで存在感を示しています。
これは、マレーシアは、世界的なテック企業が工場用地と安価な働き手を求めて海外進出しようとする際に、①広大な土地だけでなく豊かな水源もある、②国民の英語力はアジアで最上位レベル、③経済に影響する政情不安も少ない、④電力も安定供給されている、といった強みがあることに起因しています。さらに、半導体産業で培われたマシンの冷却技術やセキュリティ管理などは、そのままAIデータセンターに応用できます。