<『ラ・ラ・ランド』に『ロケットマン』、『ウォンカ』まで、ミュージカル映画で広がる「ステルス作戦」の実態>

2023年の『ウォンカとチョコレート工場のはじまり(Wonka)』『カラーパープル(Color Purple)』、そして24年の『ミーン・ガールズ(Mean Girls)』──。近年、映画賞レースをにぎわせたこれらの作品の共通点は、どれもミュージカル映画だったことにある。

ただし、映画館で驚いた人も多かったのではないだろうか。宣伝ではミュージカル映画であることに全く触れられていなかったからだ。

『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』予告編

この3作品は、いずれも既存の有名な作品を下敷きにした映画。「愛される古典的傑作の大胆な新解釈」といったキャッチコピーで宣伝されていたが、その新解釈がミュージカル化だということには言及されていなかった。

なぜ映画会社はこのような戦略を選んだのか。

フォーブス誌に寄稿した批評家のジーテンドラ・セーデヴは、この「ステルス作戦」を「直感に反する」と評した。透明性を重視する消費者文化の中で、観客を遠ざけるリスクがあるためだという。

また、YouTubeでミュージカル関連のコンテンツを発信するクリエイターからも批判が相次いだ。彼らはミュージカルが軽んじられているのではないかと疑問を呈し、もし本当にこのジャンルが敬遠されているのなら、そもそもなぜ映画スタジオはミュージカル作品を作るのか、という問いに直面した。

映画大手パラマウントでマーケティング・配給部門を取り仕切っていたマーク・ワインストックは以前、「ミュージカル」という言葉は「観客を遠ざける可能性」があると説明していた。

この主張は、実際の興行成績によっても裏付けられている。

『イン・ザ・ハイツ(In the Heights)』(21年)や『ディア・エヴァン・ハンセン(Dear Evan Hansen)』(21年)など、ミュージカル映画であることを堂々とアピールした作品が赤字に終わる一方、ミュージカルの要素を強調しなかった『ラ・ラ・ランド(La La Land)』(16年)や『ロケットマン(Rocketman)』(19年)は大きな収益を上げた。

こうした「シークレットなミュージカル映画」が登場している理由の1つは、劇場におけるミュージカル愛好者に女性と男性同性愛者が圧倒的に多いというイメージにあるのかもしれない。

ミュージカルは歌やダンスという一見軽やかな手法を用いながら、暗いテーマや重要な社会問題を描いてきた。例としては『ショウ・ボート(Show Boat)』(1927年)、『キャバレー(Cabaret)』(66年)、『春のめざめ(Spring Awakening)』(2006年)などが挙げられる。

名作ミュージカルでは、音楽はテーマ性を弱めるどころか、言葉や声のトーン、身体の動きを通して、むしろ強力で挑発的な表現を生み出す。しかし、どれほど世間や批評家から高く評価されても、女性が好むジャンルは概して、軽薄といった負のレッテルを貼られやすい傾向にある。

こうした偏見は、ミュージカルがある種のタブー視される要因の一つになっている。また、『キャッツ(Cats)』のような目立った失敗作が残した悪い印象も影響しているだろう。

『キャッツ』予告編

しかし、おそらく理由はそれだけではない。「ミュージカル」という言葉の印象があまりに強烈で、作品のイメージを決定付けてしまうという問題もありそうだ。

音楽の効果に高い評価も

1979年初演のミュージカル『スウィーニー・トッド』を「ホラー」と呼ぶ人はまずいない。どうしても「ミュージカル」というイメージのほうが先に立つ。こうした状況では、ジャンル横断型の作品を撮りたい監督は、ミュージカルを前面に押し出した映画に二の足を踏みかねない。

『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』はどうだろうか。ここで思い出されるのが、『グレイテスト・ショーマン(The Greatest Showman)』(17年)だ。同作は公開直後の週末こそ興行成績が振るわなかったが、サウンドトラックの人気が作品を救った。楽曲がヒットし、時間をかけて映画の認知が広がる「スローバーン型」の宣伝効果を生み出した結果、最終的には大きな成功を収めたのだ。

風変わりな起業家の物語という点で共通する『ウォンカ』も、時間をかけて人気が広がる戦略の成功に着想を得て、音楽要素をあえて前面に出さなかったのかもしれない。

一方『カラーパープル』が宣伝でミュージカル映画の側面を強調しなかったのは、音楽が作品の重いテーマとそぐわない、といった批判を予想したからだろうか。こうした批判は、1985年にロンドンで舞台版が初演された『レ・ミゼラブル(Les Misérables)』でも見られた。

『カラーパープル』予告編
しかし、この作品の音楽の効果を高く評価する声もある。ミュージカルの形式を採ったことで、観客は主人公の苦しみだけでなく、喜びもありありと感じ取ることができたというのだ。楽曲は、キャラクターをより深く掘り下げる。「深刻な作品は暗くなければならないわけではない」のだ。

「シークレットなミュージカル映画」は一見、映画におけるミュージカルというジャンルの不人気ぶりを浮き彫りにしているようにも思える。しかし同時に、観客が映画館に足を運びさえすれば、その評判は簡単に覆る可能性があることも示している。

もしかすると、「シークレットなミュージカル映画」は、ミュージカル映画を救う手だてになるかもしれない。

The Conversation

Jodie Passey, PhD Candidate, History of Musicals, Lancaster University

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

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