ネット環境に接続している者はみな基本的に「自分にとって居心地が最適化された情報の繭(まゆ)」のようなものに包まれる状況にいる。多少のストレスになることは織り込み済みで、それが「人としての最適化」として認識され、かつ受け入れられればイーロン・マスク、あるいは権力サイドの勝利なのだ。

ここで問題となるのは、加工された情報環境と現実環境の間に生じる齟齬と矛盾である。個々の人間にとって、現実は加工情報ほど甘くない。これをどうにかしようと突き詰めてゆくと、その結果生じるのは恐らく、映画『マトリックス』で描かれた巨大な人間農場システムのようなものだろう。

仮想と現実の決定的な逆転。

全ての(またはほとんどの)者が現実のリアル人生を捨て、巨大な情報システムから配信される環境パラメーター設定、あるいはコンテンツとして「人生」を生きる、いや消化する。肉体としての生命は、睡眠状態のまま、死ぬまでベストの状態で機械的に管理される。

それの何が良いのかといえば、たぶん地球への環境負荷を最小にできることだろう。もちろん設備投資やら何やらの有形無形のコストがすごいことになるだろうが、それさえしのげば、この惑星にとって最高のSDGsが成立してしまうのだ。おお、なんということ!

今、例えば政治家やいわゆるテック企業の上層部がそういうベクトルで考えているかは定かでない。だが私の友人、特にゲーム系のクリエーターたちは、少なからずこのような未来像を「わりと現実的」と認識している。「そうじゃないと、未来環境は持ちこたえられないと思いますよ」という話だ。

そう聞いたときは「いやぁ、さすがにどうかな?」と思っていたが、昨今、世界的に人間の情動がナチュラルに「そういう世界向き」になってきている状況を見るに、なるほどそういう形で歴史は収束していくのか......と、大いなる寂寥感とともに、いろいろ納得せずにいられない。

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マライ・メントライン MAREI MENTLEIN ドイツ北部キール出身。2度の留学を経て2008年から日本在住。独TV局プロデューサーや翻訳、通訳、執筆、コメンテーターなど幅広く活動する自称「職業はドイツ人」。近著に『日本語再定義』(小学館)など。

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