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スペインあれこれつまみ食い

松尾彩香|スペイン

スペインでも深刻な少子高齢化 政治家の関心は低め?

©️iStock -west

日本にいると「少子高齢化」「少子化対策」という言葉をよく耳にします。これらにどう対処していくかというのは選挙時の公約にも頻繁に取り上げられ、また多くの国民にとって投票する候補者を決める重要な要素にもなっているのではないでしょうか。先日、岸田首相が子育て支援として年間3兆円を支出する方針を固めたことがニュースになり様々な意見が飛び交っているようですが、少子高齢化問題はこちらスペインでもかなり深刻な社会問題となっています。

 

少子化が止まらないスペイン

世界銀行が公開している2021年の合計特殊出生率(女性1人が一生で出産する子供の平均数)を見てみると、日本が1,30なのに対しスペインは1,19という統計結果が出ています。つまり日本よりスペインの方が出生率が低く、少子化が深刻なのです。スペインの出生率は年々減少の一途を辿っており、昨年産まれた子供の数は2021年よりも7,011人少ない329,812人で過去最低の数となりました。さらに今年1月から3月の出生率は78,534人と去年の同時期から2%減少していることから、2023年の出生率はさらに前年を下回ることが予想されています。少子化が進むヨーロッパの中でもスペインの少子化は特に深刻で、出生率はマルタ共和国に続いて2番目に低いと報じられました。

さらに第1子出生時の母の平均年齢にも変化が現れています。1981年スペインの平均出産年齢は28,1歳でしたが、2021年は32.6歳とヨーロッパの中でアイルランドに続いて2番目に高い年齢となりました(日本は30,9歳)。40歳を超えて初産を迎える母親は全体の10%を占め、これはヨーロッパで一番多いという統計が出ているのです。

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©️iStock - takasuu 

 

高齢化も進む・・・

日本が長寿大国なのは有名な話ですが、実はスペインも負けてはいません。彼らのオリーブオイルや魚介をたくさん摂取する地中海式食事法は美容や健康寿命に効果的だという話を聞いたことがある方は少なくないのではないでしょうか。国民の平均長寿が長いことは確かに良いことではありますが、一方で先ほど紹介したように出生率が伸び悩んでいるため残念なことに国の高齢化はどんどん進んでいます。現在世界で一番高齢なのは日本(平均41歳)ですが、国連が発表したデータによると2050年にスペインの平均年齢は55歳と世界で一番高齢の国になることが予測されているのです。そうなると気になるのは年金。現在でも年金の受給年齢をじわじわ引き上げるなどの対策をとっているスペインですが、2050年には年金受給者一人に対して年金を払う人が一人しかいなくなってしまい、年金制度が崩壊してしまうことが危惧されています。

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©️iStock - TommL

  

なぜ子供が生まれないのか

スペインの少子化が進む主な理由は経済、女性の社会進出、価値観の変化と言われています。

物価の上昇が進む一方で最低賃金は依然として低く、失業率も12,7%と高いスペイン。さらに日本のような終身雇用制度がないスペインでは多くの若者がバケーションシーズンの間だけ観光地で働くなど使い捨て雇用で食いつないでいる現実があります。そのため独り立ちをすることもできず、25-29歳のスペイン人のうち64%が実家暮らしをしており、実家を出ても家賃と食費で給料がなくなってしまい貯金すらまともにできない若者がたくさんいるのです。

また女性の社会進出にも積極的なスペイン。内閣の半分を女性が占め、管理職の4割以上を女性が担うよう法律まで作ってしまったスペインではバリバリ働く女性が増加傾向にあります。男性と同等に戦うことが求められる社会で、出産というキャリアの中断を躊躇する女性が増えているのも少子化を加速させている主な理由の一つと言えるでしょう。

 

少子化対策という言葉をほとんど聞かないスペイン

日本で耳にタコができるほど聞いていた「少子化対策」という言葉ですが、こちらではスペインではほとんど耳にしないように思います。児童手当などは存在するようですが、年齢制限や所得制限など細かく定められており、「少子化対策」という名目での政治的アピールは日本ほどありません。それよりも政治家たちがよく口にするのは「若者への支援」。一定の年齢以下を対象に公共交通機関の割引を行ったり家賃を援助したりと、まずは若者の生活に余裕を持たせることを優先しているようです。

一方、子育て世代からは不満も上がっています。働くために子供を預ける必要がある親は少なくないと思いますが、首都マドリードでは今年9月から始まる認可保育園に入ることができなかった待機児童の数が市の中で1万人を超えてしまいました。認可保育園に入ることができなかった子供たちの親は、仕事をやめるか高い費用を払って私立の保育園に入れるかの選択を迫られており、市からの援助を求めています。それに追い討ちをかけるかのようにマドリードでは給食費の値上げも行われ、これまで4,88ユーロだった給食費が5.50ユーロに値上げされました。都会でバリバリ働きたい人が多く住んでいるマドリードで起きているこれらの現象はとても子育てがしやすいとは言えず、対策を打たなくてはこれからどんどん少子化が進む原因となってしまうかもしれません。

とは言っても移民問題、失業率、独立問題など少子高齢化以外にも様々な問題を抱えるスペイン。すべてを一度に解決することは不可能だと思いますが、そろそろ具体的な少子化対策を考え始めなくては手遅れになってしまうのではないかと心配になってしまうのはお節介でしょうか。

 

Profile

著者プロフィール
松尾彩香

2015年スペイン巡礼(カミノデサンティアゴ)フランス人の道を完歩。スペイン語習得のために渡ったコロンビアでコーヒー農家になるもスペイン移住の夢が捨てられず、現在はコロンビアのコーヒー事業を継続しながらマドリードのベッドタウンでひっそりとスペインライフを満喫中。

Twitter: @maon_maon_maon

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