最新記事
フェイク商法

愛国心につけ込んで商品を売り込む中国フェイク商法の闇

Fake-Fueled Patriotic Marketing

2024年8月8日(木)12時45分
シュエ・チャン(南洋理工大学研究員)、ツーチョン・ユィ(英エクセター大学講師)
愛国心を煽るフェイク画像

都内の中華食材スーパーの店頭という触れ込みの画像 中新经纬官⽅微博

<反日感情に期待して、でたらめな情報を流した失敗例>

「日本の政治家に原発の汚水を飲ませろ」。そんなメッセージをラベルに貼ったフルーツティーが日本の店で売っていたという。去る5月3日、中国のSNS微博(ウェイボー)に写真付きで投稿されたもので、撮影場所は東京都内の某中華食材スーパー。製造元はMecoブランドで知られる中国の香飄飄(シャンピャオピャオ)。「汚水」は、言うまでもなく福島第一原発から放出された処理水のことだ。

翌5月4日、中国の経済ニュースメディア「中新経緯」はこの強烈な反日メッセージに反応し、「香飄飄が日本のスーパーで核汚水を風刺」というハッシュタグを付けた。すると、この画像は瞬く間に中国のネット上で拡散した。


同日、香飄飄も微博の自社アカウントで反応した。「うちの従業員はすごい!」と書き込み、同社の女性従業員が個人の資格で行ったものと認め、その行為を絶賛した。

5月5日の朝には香飄飄の会長が空港で「われらが戦士の帰還歓迎」という横断幕を掲げ、帰国した従業員を出迎えた。夕刻には、彼女に10万元(約210万円)の報奨金を出すとの発表もあった。

「政治的消費」とは何か

それは国民の民族主義・愛国主義的な感情に訴える巧妙なマーケティング戦略だった。5月4日と5日に抖音(ドウイン、TikTokの中国版)上で行われた同社のライブストリームセッションには1000万を超えるアクセスがあり、そこでは日中戦争を描いた人気ドラマ『亮剣』の主題歌が流れ、司会者と参加者が互いに「同志」と呼び合った。このライブ配信販売による1日の売り上げは、通常の400倍に当たる100万元(約2100万円)に達したという。

翌5月6日、香飄飄の株価は取引開始直後に上限に達し、1株19.21元(約406円)で引けた。翌7日にはさらに10%近く上がり、2023年7月以来の高値を記録した。

ところが事態は一転する。既に5日の時点で、日本在住の中国人が「これはフェイクだ」と指摘していた。撮影場所とされる店も事実関係を否定した。複数のメディアも、これはフェイク画像を用いた悪質な「愛国マーケティング」だと断じた。結果、香飄飄の株価は急落した。

ここ数十年で、人々の暮らしと政治の関わり方は大きく変化してきた。政治的な空気やプロパガンダが、ごく私的なライフスタイルや消費行動にも影響を及ぼす。つまり、消費が政治化してきた。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

高市首相「首脳外交の基礎固めになった」、外交日程終

ワールド

アングル:米政界の私的チャット流出、トランプ氏の言

ワールド

再送-カナダはヘビー級国家、オンタリオ州首相 ブル

ワールド

北朝鮮、非核化は「夢物語」と反発 中韓首脳会談控え
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 7
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 8
    海に響き渡る轟音...「5000頭のアレ」が一斉に大移動…
  • 9
    必要な証拠の95%を確保していたのに...中国のスパイ…
  • 10
    【ロシア】本当に「時代遅れの兵器」か?「冷戦の亡…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 10
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中