最新記事
中東

「ラファ侵攻」を巡りアメリカとイスラエルの対立が激化、ネタニヤフが同盟国より優先するものとは?

Politics Over Peace

2024年4月2日(火)19時13分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)

newsweekjp_20240402031649.jpg

イスラエル軍は連日空爆を実施する南部ラファに地上侵攻に出る構えだ MOHAMMED SALEMーREUTERS

イスラエルが払う代償

イスラエルの有力紙ハーレツのコラムニスト、アロン・ピンカスは25日に、イスラエルはアメリカと「衝突する道を進んでいる」と指摘。建設的な外交を試みるバイデンに対し、ネタニヤフが軽蔑するような態度を繰り返していることを挙げた。

アメリカの要請を無視し、大統領の忠告を軽んじ、国務長官を翻弄し、提案を嘲笑し、戦後のガザについて信頼できる一貫したビジョンを示すことをかたくなに拒み、米政権と公然と対立する──その代償を支払うことになるだろうと、ピンカスは書いている。


今回の国連決議は、イスラエルをひどく侮蔑するものではない。「ラマダン(断食月)期間中の即時停戦と、全ての当事者がこれを尊重して持続可能な停戦への道を開くこと」「人質全員の即時かつ無条件の解放」「人道支援の提供のあらゆる障害を取り除くこと」を要求している。

これに対してアメリカは、紛争を引き起こした昨年10月7日のハマスの暴挙に決議案が言及していないとして棄権。全15理事国のうち残り14カ国が賛成して採択された。

もっとも、決議案には反対するような文言はなかったと、関係者は説明する。草案は「恒久的停戦」を求めていたが、米国連代表部はラマダン期間中のみという文言に変更させ、「持続的な停戦」につながることを期待するとした。

ただし、3月上旬に始まったラマダンは残り2週間足らずで、アメリカ、イスラエル、エジプト、カタールの外交官が個別の交渉で提案した6週間の停戦ほど長くはない。

それでもネタニヤフは、人質解放を条件とする停戦ではないと主張するが、これは詭弁だろう。決議案に従えば、「即時停戦」と「全ての人質の即時かつ無条件の解放」が同時に行われると考えられる。

いずれにせよ、少なくともラマダン明けまでに停戦は実現しそうにない。安保理決議には拘束力があるとはいえ、国連には執行機関がない。イスラエルもハマスも「要求」を無視する可能性が高い。

ならばなぜ、ネタニヤフはアメリカの棄権にこれほど激怒したのか。長年、イスラエルを非難するか処罰する安保理決議で拒否権を行使することがアメリカのイスラエル支援の証しだった。

その意味で今回の棄権は「アメリカはもはやイスラエルのご機嫌取りのために拒否権を行使したりはしない」というメッセージとも取れる。これがことさらネタニヤフを怒らせたのは、このところ同様のサインが相次いで発信されていたからだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

小泉防衛相、中国軍のレーダー照射を説明 豪国防相「

ワールド

米安保戦略、ロシアを「直接的な脅威」とせず クレム

ワールド

中国海軍、日本の主張は「事実と矛盾」 レーダー照射

ワールド

豪国防相と東シナ海や南シナ海について深刻な懸念共有
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 6
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 7
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 8
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 9
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中