最新記事
インド

シーク教指導者殺害でインドと対立するカナダ 西側同盟国が沈黙する理由は?

2023年9月22日(金)10時20分
ロイター
シーク教指導者のバナーを掲げる寺院

カナダ政府は今週、同国籍のシーク教徒殺害にインド政府が関与した可能性があると公表した。写真は殺害されたシーク教の指導者、ハーディープ・シン・ニジャール氏のバナーを掲げるブリティッシュコロンビア州のシーク教寺院。同日撮影(2023年 ロイター/Chris Helgren)

カナダ政府は今週、同国籍のシーク教徒殺害にインド政府が関与した可能性があると公表した。通常、この種の情報が出ると、カナダと友好関係にある民主主義諸国は大騒ぎになる。ところが、今回は違う。

インドは今、米国をはじめとする西側諸国から、中国を抑える対抗勢力として熱視線を送られている。そうした中、ニューデリーで20カ国・地域(G20)首脳会議が開催された数日後にカナダのトルドー首相がインドを珍しく攻撃したことで、各国は気まずい立場に立たされた。

オタワのカールトン大学のステファニー・カービン教授(国際関係論)は「西側諸国の計算上、インドは中国とのバランスをとるために重要だが、カナダはそうではない」と説明。「カナダは西側諸国の中で唯一、あらぬ方向にそれてしまった」と語る。

トルドー氏は18日、6月に起きたシーク教徒殺害にインドの諜報員が関与した可能性があるという「信じるに足る疑惑を積極的に追求している」と発表した。

その時点でカナダはすでに、米国、英国、オーストラリア、ニュージーランドを含む機密情報共有同盟「ファイブ・アイズ」などと、この問題について話し合っていた。

しかし、これまでの反応は静かだ。英国は公にインド批判を控え、同国との貿易協議は予定通り継続すると表明した。この件に関するクレバリー外相の声明は、インドの国名にも言及していない。

英王立国際問題研究所(チャタムハウス)のインド専門家、チエティジ・バジペー氏によると、英国はカナダを支持することと、貿易相手国であり中国に対抗するのに必要な国・インドを敵に回すことの狭間で難しい立場に立たされている。

「インドが関与しているという決定的な証拠がない限り、英国の反応は鈍いままだろう」とバジペー氏は予想。自由貿易協定を結べば、インドと英国の双方にとって「大きな政治的勝利」となるだろうと語った。

待ちの戦術

米国家安全保障会議のカービー戦略広報調整官は、米国が「深く懸念している」と述べ、インド政府関係者に捜査への協力を促した。インドは殺人事件への関与を否定している。

米ワシントン・ポスト紙によると、トルドー首相は先週のG20首脳会議でインドを非難する共同声明を出すよう求めたが、米国やその他の国々から拒否されたという。

これに関してカービー氏は「われわれが、どのような形にせよカナダを拒絶したという報道は間違いだ。この件についてカナダとの協力と対話を続けていく」と述べた。

2018年にロシアの二重スパイとその娘が英国で神経ガスによって殺害された後の騒動と比較すると、トルドー氏の発表に対する反応の鈍さは際立っている。

当時、英米、カナダなどの国々は、懲罰として合計100人以上のロシア人外交官を追放した。ロシアは殺害への関与を否定している。

先端医療
手軽な早期発見を「常識」に──バイオベンチャーが10年越しで挑み続ける、がん検査革命とは
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が

ビジネス

NY外為市場=ドル対ユーロで軟調、円は参院選が重し
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 7
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 8
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中