最新記事

日本政治

日本政治の短絡化を進めた「闘う政治家」安倍晋三

THE LEGACY OF ABE

2022年9月29日(木)11時00分
石戸 諭(ノンフィクションライター)
安倍晋三

政権を奪還し、首相に返り咲くことになった2012年12月の衆院選で演説する安倍(東京・秋葉原) YURIKO NAKAO-REUTERS

<味方には融和的に、民主党や護憲派など「政敵」には攻撃的に振る舞った。国葬をめぐり二項対立が再演されたが、日本はこの「遺産」を克服できるのか>

死してなお「対立」を残したところが、いかにも安倍晋三という政治家らしいと言えようか。首相経験者では吉田茂以来となる国葬は、世論を二分というよりも、むしろ反対意見のほうが広がっている。

参院選の応援演説中にテロリストの凶弾に倒れるという非業の死であったにもかかわらず、高まったのは山上徹也容疑者への「理解」である。より直截的に表現すれば、実母が入信し、多額の献金で家庭を壊した旧統一教会(世界平和統一家庭連合)への怨恨を供述したという山上容疑者への「理解」と「同情」だった。

動機とされたのは、旧統一教会の友好団体に安倍が送った好意的なビデオスピーチであり、そうである以上、テロは安倍自身が招いたものという暗黙の了解も同時に広がっていった。

私はテロ行為を安易に肯定することに危惧を覚えるが、社会の現状は心もとない。国葬問題は単なる政争の具に成り下がり、安倍に賛成か、反対かという安倍政権下でおなじみになった構図が、題材を替えて再演されている。

本来、複雑なはずの政治イシューは単純な二項対立と、「敵」をいかに倒すかというゲームに変わっていく。

思い返すのは、こんな光景である。

2019年7月20日――。

東京は梅雨寒の影響で、例年になく暑さが感じられない7月になった。当時、首相だった安倍は東京・秋葉原で2019年参院選最後の演説に臨んでいた。

2012年に総裁に返り咲いた安倍は、その年の総選挙で野田佳彦率いる民主党から政権を奪還した。その選挙で秋葉原をマイク納めの地に選んでからというもの、安倍にとっては聖地と呼ぶべき場所になっていた。

「反日」というレッテル貼り

2012年末以降、安倍政権は国政選挙で勝利を重ね、この時点でも内閣支持率は40%台後半と高支持率を維持していた。

しかし、なによりNHKの世論調査によると、支持理由は「他の内閣より良さそうだから」が圧倒的なトップであり、その支持は消極的なものだった。この傾向は、安倍政権で一貫していた。

脆弱な野党に助けられ、選挙に勝ち続けている安倍は、自民党内の支持を取り付け、党内外に「他に政権を担えそうな政治家がいない」という状況をつくり出すことに成功したとみることもできる。

国民の消極的な支持しか調達できないが、選挙における無類の強さを誇るという安倍政権の特徴が、この選挙には如実に表れていた。衆院解散からの総選挙ほどの注目は集まらない参院選であるということを差し引いても、気候のように社会の関心が冷え込んだマイク納めになっていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米、英の医薬品関税をゼロに NHS支出増と新薬価格

ビジネス

インタビュー:USスチール、28年実力利益2500

ワールド

ネタニヤフ氏、恩赦要請後初の出廷 大統領「最善の利

ワールド

ロシア安保会議書記、2日に中国外相と会談 軍事協力
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯終了、戦争で観光業打撃、福祉費用が削減へ
  • 2
    【クイズ】1位は北海道で圧倒的...日本で2番目に「カニの漁獲量」が多い県は?
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 5
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    600人超死亡、400万人超が被災...東南アジアの豪雨の…
  • 9
    メーガン妃の写真が「ダイアナ妃のコスプレ」だと批…
  • 10
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中