最新記事

兵器

ロシアの進軍を止める?最強兵器「ハイマース」

What Is HIMARS? U.S. Providing Rocket Launchers to Help Ukraine

2022年7月26日(火)19時05分
ジャック・ダットン

GPS誘導ロケット弾が正確に標的を叩く。最大6発の装填も1分で終わる Lockheed Martin/YouTube

<ロシア軍優勢だったウクライナ東部の戦況を一変させる「ゲームチェンジャー」の実力>

アメリカがウクライナに提供したM142高機動ロケット砲システム(HIMARS=ハイマース)は、射程の長さと、ロシア軍に深刻な打撃を与える能力の高さから、西側の軍事専門家たちからは戦況を一変させる「ゲームチェンジャー(戦況を一変させる兵器)」と呼ばれている。

ハイマースが初めてアメリカからウクライナに到着したのは6月。ロシア軍が完全支配を狙って攻勢をかける東部のドンバス地方で、ウクライナ軍がロシア軍を押し返すための強い味方になるとみられている。

アメリカのロッキード・マーティンが製造したこのロケット砲システムは、長射程で移動式、しかも精密誘導による砲撃が可能。戦場で圧倒的な力を発揮する兵器だ。実際の運用では標準的なアメリカ陸軍の車台「M1140」に搭載される。

GPS誘導ロケット弾を1基につき6発搭載可能で、再装填にも約1分しかかからない。運転手、射撃手、発射装置班長からなる少人数のチームで稼働可能だ。

ハイマースの最大射程は300キロだが、ウクライナ向けのハイマースでは約80キロに制限されている。ロシアを刺激し過ぎないようにするためだ。それでも、先に西側から供与されたM777榴弾砲と比べれば2倍近い。

ロシアは「悲惨な状況」

ハイマースは1990年代末に開発が進み、2005年から配備されている。イラクおよびシリアにおける過激派組織「イスラム国」(IS)との戦闘で重要な役割を果たした。2010年にはアフガニスタンにも配備され、タリバンに対するNATO軍の攻勢でも威力を発揮した。

アメリカ軍高官は7月15日、ウクライナ軍はハイマースを使用して、この数週間で100以上の「重要度の高い」ロシア側の標的を破壊したと述べた。この高官によれば、これらの標的は、弾薬庫、長射程砲の設置場所、指揮所、防空拠点、レーダーおよび通信ポイントなどだという。

アメリカ陸軍の退役中将マーク・ハートリングは16日、ハイマースを「ゲームチェンジャー」と形容し、ロシア軍はいまや「悲惨な状況」に陥っていると述べた。ウクライナ側が現在、ロシア軍との戦闘で用いている大半の大砲と比べても、ハイマースは射程距離が長く、精度および正確度で勝っているからだ。

ハートリングは5月末の時点で、ハイマースについて、「より機動性があり、必要な訓練も少なく、メンテナンスやサポートにも手間がかからない」と書いていた。

ホワイトハウスは15日、ハイマース4基の追加供与を発表。先に提供した12基と合わせて16基になる。

(翻訳:ガリレオ)

■【動画】最強ロケット砲ハイマースのすべて

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザ南部、医療機関向け燃料あと3日で枯渇 WHOが

ワールド

米、対イスラエル弾薬供給一時停止 ラファ侵攻計画踏

ビジネス

米経済の減速必要、インフレ率2%回帰に向け=ボスト

ワールド

中国国家主席、セルビアと「共通の未来」 東欧と関係
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    習近平が5年ぶり欧州訪問も「地政学的な緊張」は増すばかり

  • 4

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 7

    迫り来る「巨大竜巻」から逃げる家族が奇跡的に救出…

  • 8

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中