最新記事

世界経済危機

戦争、インフレ、食糧不足......戦後最大の世界経済危機が迫っている

DIVIDED AND POWERLESS

2022年6月30日(木)19時45分
エドワード・オルデン(米外交問題評議会上級研究員)
経済危機

ILLUSTRATION BY OKERPRO/SHUTTERSTOCK, HORDIEIEV ROMAN/ISTOCK

<過去の危機と違うのは、主要国の総意をまとめることがほとんど不可能になったこと。成長と安定のため、小異を捨て大同に就く第2次大戦後の世界秩序が崩壊しかけている>

第2次大戦以降の国際経済秩序において注目すべき点は、深刻な危機に直面したときに世界各国の政府が発揮してきた「柔軟性」だ。

1970年代のスタグフレーション(不況とインフレの併存)と金本位制の終焉、1990年代のアジア通貨危機、2008年の世界金融危機に至るまで、主要経済国は協力策を見いだす業に驚くほどたけていることを示してきた。

それはまあ幸運だったのだが、今般の危機ではそれがついに途切れるかもしれない。
20220705issue_cover200.jpg

ロシアとウクライナの戦争、インフレ、世界的な食糧・エネルギー不足、アメリカの資産バブル崩壊、途上国の債務危機、コロナ禍で尾を引く閉鎖措置やサプライチェーンの問題などの負の連鎖が重なり、戦後最大の深刻な危機となる恐れがある。

そうであれば最大級のグローバルな協力が急務となるはずだが、みんなで協調して対処しようという機運は見られない。

皮肉なことに、協力関係の希薄化はおおむね過去の成功に起因する。さまざまな危機に対処し、混乱を乗り越え、世界的な成長軌道を回復できたことにより、以前より多くの国が豊かになったがために影響力も増し、それぞれ自国の利益を主張するようになった。経済的な優先課題より、領土やイデオロギー上の目標を優先する国もある。

その結果として諸国間で総意をまとめることはほとんど不可能になった。今回の危機で、世界は再び一致団結する方策を見いだすのではなく、競合的かつ部分的な対応を次々と打ち出すしかない状態にある。

いい例が6月12~17日にジュネーブで開催されたWTO(世界貿易機関)の閣僚会議だ(2020年の予定がコロナ禍で延期)。いかなる合意も加盟164カ国・地域の全会一致が必要という原則のせいで、どうにも身動きが取れない。

例えば依然としてコロナワクチンの特許権の一時放棄を実現することに苦労している。世界の海で水産資源の乱獲をもたらす漁業補助金の抑制策についても、延々と20年以上にわたって交渉が続いている。

自国の事情を何より優先

かつてWTOは貿易のルール策定や紛争解決のために道筋をつけたものだが、今のサプライチェーン問題の解消には役立っていない。食糧危機への効果的な対応も無理なようだ。ウクライナとロシアからの穀物輸出が途絶えるなか、既に20以上の国が国内の供給確保を優先して輸出制限を課している。

1998年からの国境を越えた電子商取引に対する関税猶予措置についても、更新に向けた暫定合意は得られたものの解決は先送りで、インドや南アフリカなどは否定的な姿勢でいる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国、人民元バスケットのウエート調整 円に代わりウ

ワールド

台湾は31日も警戒態勢維持、中国大規模演習終了を発

ビジネス

中国、26年投資計画発表 420億ドル規模の「二大

ワールド

ロシアの対欧州ガス輸出、パイプライン経由は今年44
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 8
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中