最新記事

中国

中国が崩壊するとすれば「戦争」、だから台湾武力攻撃はしない

2022年1月20日(木)19時57分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

台湾の若者が「習近平、死ね!」とコメントに書き込めば、大陸の若者は「留島、不留人!」(台湾という島は残すが、台湾人は皆殺しにせよ!)といった具合の激しい罵りあいが展開されている。その罵りあいは、突如、どこからでもやってきて、たとえばオンラインゲームなどに大陸と台湾の若者がゲームのグループとして入っていると、共通の敵に挑みながら、互いに大陸と台湾を罵倒し始めるという状況もある。

中国国内のインフルエンサーたちも、より激しい内容を発表してはアクセス数を稼ぎ、ナショナリズムを煽っている。たとえば2021年7月17日のコラム<「日本が台湾有事に武力介入すれば、中国は日本を核攻撃すべき」という動画がアメリカで拡散>に書いたように、軍事オタクが発表した動画に多くのネットユーザーが集まるのだが、習近平としては海外の人たちに中国が本気で核攻撃するなどと思われてはならないので、こういった動画を削除する作業に追われている。

そのため習近平は「中国はもっと(海外から)愛される国にならなければならない」いう発言をしたほどだ。

これは誰でもがネットにアクセスすることができるようになった結果がもたらした「時代の子」的な現象だが、中国のネット空間はこのような若者に満ちている。誰もが自分の存在意義を主張し確認しようと、言葉は激しくなる一方で、心は互いへの侮蔑と憎しみに歪んでいる。

だから習近平は、台湾周辺での軍事演習を激しくやっては、中国の若者に見せ、「ほら、中国政府はこんなに激しく台湾に接しているので、中国共産党は生ぬるいなどと責めてはダメだよ」とナショナリストたちを説得しているのである。

言うならば、ナショナリストの憤懣へのガス抜きという側面を持っていることを見逃してはならない。

勝てない戦争は絶対にしない――中国共産党一党支配体制維持を優先

以上より、「中国は勝てない戦争は絶対にしない」と言うことができ、もし逆に中国共産党の一党支配体制を崩壊させたいのなら、「アメリカや台湾の方から中国に戦争を今すぐにでも仕掛けるといい」という、何とも皮肉な現実が厳然と横たわっている。

習近平にとって、何よりも重要なのは中国共産党による一党支配体制の維持なので、中国自らが率先して台湾を武力攻撃することはない。

これを勘違いすると、日本は「政冷経熱」を正当化して、経済における日中交流、日中友好ならば「安全だ」と勘違いし、その結果、習近平の思う壺にはまっていくという危険性を孕んでいる。

注意を喚起したい。

(なお、本稿の内容に関しては、NHKの籾井元会長とも激しく議論を交わし、その対談内容は今月26日に発売される月刊誌『Hanada』に掲載される。)

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら

51-Acj5FPaL.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史  習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

202404300507issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年4月30日/5月7日号(4月23日発売)は「世界が愛した日本アニメ30」特集。ジブリのほか、『鬼滅の刃』『AKIRA』『ドラゴンボール』『千年女優』『君の名は。』……[PLUS]北米を席巻する日本マンガ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRB、金利据え置き インフレ巡る「進展の欠如」指

ビジネス

米3月求人件数848.8万件、約3年ぶり低水準 労

ビジネス

米ADP民間雇用、4月は19.2万人増 予想上回る

ビジネス

EXCLUSIVE-米シティ、融資で多額損失発生も
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 8

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中