最新記事

中国

Hua-wei(ホァーウェイ)孟CFO逮捕の背景に「中国製造2025」

2018年12月7日(金)10時35分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

ハイシリコンに救援を求めればいいのだが、ハイシリコンは中国政府の要求に応じず、民間会社である自社(ホァーウェイ)のハイテク製品製造にしか半導体を提供していない。ホァーウェイのハイテク製品は、完全な自給自足を一つの会社内で閉じて行っているのだ。

逆を言うならば、ホァーウェイの場合は、どんなにアメリカが取引を禁止しても、他社、特にアメリカから半導体を輸入していないので、少しも影響を受けないのである。

このままでは、米中間のハイテク戦争において、ひょっとすると、ホァーウェイがクァルコムの先を行くことになるかもしれない。

ホァーウェイ創業者の娘を逮捕

だからアメリカはホァーウェイの経営を潰そうと、このたびカナダ司法当局に依頼して創業者(任正非CEO)の娘である孟晩舟CFO(最高財務責任者)を逮捕させたものと考えられる。カナダの司法当局は12月5日、孟晩舟を1日にカナダ西部のバンクーバーで逮捕したと発表した。

アメリカの報道によれば、アメリカが行っている対イラン制裁に違反したからということだが、中国政府は激しく抗議。アメリカはカナダに身柄引き渡しを要求し、中国は即時釈放するようにアメリカおよびカナダ政府に要求している。

火花を散らす「中国製造2025」

12月3日のコラム「米中首脳会談、習近平の隠れた譲歩と思惑」で、米中首脳会談という大舞台だというのに、習近平がトランプ大統領に、たかだか「クァルコム」という一半導体メーカーの名前を挙げて意思表明をした不思議さを書いたが、トランプは習近平から「クァルコム」の話を聞きながら、そのとき既にカナダ司法当局に依頼してホァーウェイ創業者の娘を逮捕させていたということになる。

一見、「休戦」のように見える米中貿易摩擦だが、米中の対立の根本は「中国製造2025」にあるので、関税のパーセンテージなどを見て分析しても、実は仕方がない。

根本にある「中国製造2025」に関して、習近平は絶対に一歩も譲らないし、トランプもまた中国がコア技術でアメリカを抜くことなど絶対に許さないだろうからだ。

背後にあったはずの「中国製造2025」が、いよいよ表面化して、目に見える形で火花を散らし始めた。

ホァーウェイとハイシリコンの創設と経緯および実績に関しては、12月22日に出版される『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』で詳述した。

なお、日本ではHua-weiを「ファーウェイ」と読ませているが、「Hua」は「ホァ」であり、「ファ」ではない。「ファ」なら「Fa」など、「F」の文字がなければならない。慣用に反するが、ここでは発音に忠実に「ホァーウェイ」とした。

endo2025.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』(2018年12月22日出版)、『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中英文版も)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルとの貿易全面停止、トルコ ガザの人道状況

ワールド

アングル:1ドルショップに光と陰、犯罪化回避へ米で

ビジネス

日本製鉄、USスチール買収予定時期を変更 米司法省

ワールド

英外相、ウクライナ訪問 「必要な限り」支援継続を確
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 10

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中