最新記事

中朝関係

北朝鮮の核開発を支える中朝貿易の闇

2017年8月8日(火)11時30分
ビル・パウエル(本誌シニアライター)

これはCIAと米財務省の分析担当官が長年言ってきたことと一致する。彼らが成功例として挙げるのが、05年のマカオの銀行バンコ・デルタ・アジア(BDA)に対する制裁だ。BDAは北朝鮮の資金洗浄に利用されていると見なされ、BDAと取引関係にある諸外国の銀行も含め、アメリカの金融システムにアクセスできなくなった。

北朝鮮はこの制裁で窮地に陥った。BDAには北朝鮮政府高官の個人資金も預けられていたとみられるが、制裁により2500万ドル以上の資産が凍結されてしまったのだ。「あれはアメリカがやってきたなかで最もうまく標的を絞った措置だった」と、スチュアート・レビー元財務次官は振り返る。

その2年後、北朝鮮は核交渉の再開に応じるから、BDAに対する制裁を解除してほしいと求めてきた。ブッシュ政権はこの取引に応じた。だが、核交渉は何の成果ももたらさなかった。

それから10年、北朝鮮がアメリカを核攻撃する能力を手にする日は近づいている。楽観論者に言わせれば、「その日」は早くて3年後。一方、悲観論者は1年半後とみている。

いずれにしても、その時が来たらアメリカと同盟国は重大な決断を迫られる。金を理性のある核の持ち主として扱い北への攻撃を思いとどまるか。それとも金を「予測不能」と見なし、対北朝鮮先制攻撃とそれに伴うはずの悲惨な戦争を選択するか――。

こうした状況を考えれば、トランプ政権が中国政府の怒りを買うリスクを冒そうとも、北朝鮮を支える中国企業の取り締まりに乗り出そうとしている訳が分かる。北朝鮮をめぐる論議に参加しているホワイトハウス関係者が言うとおり、「それ以外にまともな選択肢はない」からだ。

【参考記事】北朝鮮労働者がロシアW杯会場で「強制労働」? 事実なら大会開催権はく奪も

webw170808-nk03.jpg

中朝の国旗を売る丹東の行商人 Kevin Frayer/GETTY IMAGES

北朝鮮は「孤立とは程遠い」

制裁を発表した丹東銀行を除けば、トランプ政権は問題の10社について詳細を公表していない。とはいえ複数の米高官によると、今後予定する行動に関しては既に前例がある。

米政府に言わせれば、中国には北朝鮮の対外貿易・金融取引を手助けする数社の「窓口企業」が存在する。オバマ政権時代の昨年9月、米財務省はその1社である丹東鴻祥実業発展、および傘下の遼寧鴻祥集団を制裁対象に追加したと発表。併せて、米司法省が両社を刑事訴追した。

「理解すべき重要な点は、対北朝鮮貿易のより幅広い枠組みにおいて両社が独自の役割を果たしていることだ」と、C4ADSの報告書は指摘する。

米司法省の資料によると、丹東鴻祥は「中朝間の輸出入業務を手掛ける」貿易会社を標榜。グループ企業と共に、北朝鮮の政府組織に物資を調達する一方で、数億ドル相当の北朝鮮製品を買い付けて中国市場に流していた。その売り上げは、北朝鮮の核・ミサイル開発計画に不可欠なデュアルユース部品の購入資金として利用されたと、アメリカ側はみている。

丹東鴻祥は、北朝鮮にとっておそらくはるかに価値が大きい役割も果たしていた。米政府と国連の制裁対象である朝鮮光鮮銀行(KKBC)のフロント企業として、国際金融システムにアクセスすることだ。

KKBCは北朝鮮の核を含む兵器拡散の資金源とされ、09年以降グローバル金融システムから遮断されている。国内の主要銀行であるKKBCが国際市場で取引できなければ、北朝鮮は兵器開発用の部品や製品を提供する外国の業者に代金を支払うことができない。彼らは北朝鮮の通貨ウォンではなく、米ドルでの支払いを求めるからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

実質消費支出、2月は1.8%減 3カ月連続マイナス

ビジネス

米当局、テスラの遠隔操作機能の調査終了 ソフト更新

ワールド

赤十字総裁「言動両面で戦争ルール尊重を」、トランプ

ワールド

イランで1月20日に拘束された日本人、6日に保釈さ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐせ・ワースト1
  • 3
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙の2大テーマでAI懸念を払拭できるか
  • 4
    地面にくねくねと伸びる「奇妙な筋」の正体は? 飛行…
  • 5
    トランプ、イランに合意期限「米東部時間6日午前10時…
  • 6
    「高市しぐさ」の問題は「媚び」だけか?...異形の「…
  • 7
    人口減の自治体を救う「小さな浄水場」──誰もが常に…
  • 8
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 9
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 10
    米軍が兵器を太平洋から中東に大移動、対中抑止に空白
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 3
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 4
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 5
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 6
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 7
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 8
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経…
  • 9
    「高市しぐさ」の問題は「媚び」だけか?...異形の「…
  • 10
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの…
  • 6
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中