最新記事

タイ

タイは麻薬撲滅をあきらめて合法化を目指す?

2016年10月8日(土)09時20分
パトリック・ウィン

Athit Perawongmetha-REUTERS

<厳格な薬物対策を進めてきたタイで合法化が議論される一因は、刑務所の過密にある>(写真:東南アジアの国々では安価で強力な効き目があるメタンフェミンが広く出回っている)

 麻薬撲滅が絶望的なら、いっそ合法化すればいい――半ばやけくそのようだが、この過激なアイデアを提案したのはタイのパイブーン・クムチャヤ法相。彼は最近、覚醒剤の一種メタンフェミンの使用を合法化することを繰り返し提唱している。「世界は麻薬戦争に負けたんだ。タイだけではない」と、パイブーンは言う。

 タイの薬物取締法は非常に厳しく、所持しただけで死刑になりかねない。タイ警察はここ10数年、アメリカ主導の麻薬撲滅作戦を手本に取り締まりを進めてきた。タイの麻薬との戦いによる死者は、この10年で2500人を超えたとみられる。

 ところがここにきて突然、軍事政権が薬物規制を緩める姿勢を見せ始めた。「こんなことは初めてだ」と、薬物規制の公開性を求めている国際薬物政策連合(IDPC)バンコク支部のパスカル・タングアイは言う。

【参考記事】タイを侵食する仏教過激派の思想

 純度の低い大麻を吸引しただけで刑務所行きになるタイで、メタンフェミンの合法化が検討されるとは驚きだ。だがタイなど東南アジアの多くの国々では、大麻よりもメタンフェミンのほうが使用者が多い。安価で強力な効き目があるからだ。タイでは薬物関連の逮捕件数の90%以上がメタンフェミン絡みだ。

囚人減らしに効果絶大

「タイのメタンフェミン使用者は薬物欲しさに犯罪に走る依存症者ではない」と、タングアイは言う。「勉強に集中したい学生や居眠り運転を避けたいトラック運転手、明け方に作業するゴム園の労働者が使っている」

 吸引すると「疲れを感じなくなる」と、バンコクの30代のタクシー運転手ウユットは言う。彼は客を乗せる合間に常用しているが、睡眠不足が続くと吸引後に幻覚が現れるという。「遠くから不気味な声が聞こえ、何者かに監視されているような恐怖心にとらわれる」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国外相、イラン指導者殺害や体制転換の扇動「容認で

ワールド

OPECプラス8カ国、4月に増産開始で合意 イラン

ワールド

イラン首都照準に2日目攻撃、トランプ氏は反撃に警告

ワールド

プーチン氏、ハメネイ師殺害は道徳規範と国際法に違反
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
2026年3月 3日号(2/25発売)

フィンテックの進化と普及で、金融はもっと高速に、もっとカジュアルに

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 2
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 3
    「若い連中は私を知らない」...大ヒット映画音楽の作曲家が「惨めでもいいじゃないか」と語る理由
  • 4
    「本当にテイラー?」「メイクの力が大きい...」テイ…
  • 5
    【銘柄】「三菱重工業」の株価上昇はどこまで続く...…
  • 6
    米・イスラエルの「イラン攻撃」受け、航空各社が中…
  • 7
    【銘柄】「ファナック」は新時代の主役か...フィジカ…
  • 8
    今度は「グリンダが主人公」...『ウィキッド』後編の…
  • 9
    「高市大勝」に中国人が見せた意外な反応
  • 10
    「何でこんなことするの...」 調子に乗った観光客、…
  • 1
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 2
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 3
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 4
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 5
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 6
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 7
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 8
    中国で今まで発見されたことがないような恐竜の化石…
  • 9
    住宅の4~5割が空き家になる地域も......今後30年で…
  • 10
    「若い連中は私を知らない」...大ヒット映画音楽の作…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中