最新記事

シンガポール

シンガポール「王朝」のお家騒動で一枚岩にひび

2016年9月20日(火)16時00分
大塚智彦(PanAsiaNews)

David Loh-REUTERS

<建国の父、故リー・クアンユーが作り上げた「明るく」ハイテクの権威主義国家シンガポールに変化の兆し。父を神格化して権力基盤を固めようとする息子のリー・シェンロン首相に対し、堂々と兄を批判し、より国民に近い路線を主張する妹のリー・ウェイリンを待望する声が高まっている>(写真は2003年9月、左から2番目が80歳の誕生日を祝うリー・クアンユー。左はリー・ウェイリン、右はリー・シェンロン)

 9月16日、フェイスブックにある書き込みがアップされた。「もしパパが生きていれば今日で93歳になる。彼は人生の大半を国家の進展と国民の福祉に捧げてきた」。ここでいうパパは東南アジアの都市国家シンガポールの建国の父、リー・クアンユー元首相のことであり、書き込んだのはその実の娘、リー・ウェイリンさん(61)とされている。

 シンガポールといえば東南アジアの経済大国で高度のハイテク情報通信社会でもあり、国民の間にはなんの不満も不安もないと思われている半面、変革への思いが地下水脈のように流れているのも事実。そうした潜在的変革願望に火をつけそうな存在として今、注目されているのがリー・ウェイリンだ。

【参考記事】アジアのフィンテック拠点争い、シンガポールがライバル香港をリード

 シンガポールで国家脳神経科学院を運営するリー・ウェイリンはフェイスブックへの書き込みで「父の遺志が踏みにじられている」と厳しく指摘。生前リー・クアンユーとその妻である母が住んでいたシンガポールのオックスレイ通り38番にある自宅を政府が歴史的建造物として整備・保存しようとしていることについて「父は遺跡化を望まなかった。父は住む人がいなくなれば壊してほしいと考えていた」と政府方針に異を唱えたのだった。

 リー・ウェイリンが噛みついた政府とは、リー・クアンユーの長男であり、リー・ウェイリンの実兄でもあるリー・シェンロン首相が率いる政府である。言ってみれば父を巡る兄妹の言い争いなのだ。これが単なる兄妹喧嘩に終わらないのが、シンガポールが「明るい北朝鮮」と揶揄される所以でもある。

【参考記事】変化の風に揺れる強権国家シンガポール

「リー王朝一族支配」の都市国家

 マレーシアから1965年に独立を果たしたシンガポール。リー・クアンユーは初代首相として1990年まで国を率い、急速な経済発展で東南アジアの優等国家に成長させた。首相辞任後も上級相、顧問相として2011年まで政治の中枢に留まり、2015年3月に91歳で死去するまで政治に影響力を持ち続けた文字通りの国家指導者だった。

【参考記事】シンガポール「創業者」、リー・クワンユー氏の功罪

 途中14年間は親族以外が首相を務めたが、2004年からは長男リー・シェンロンが首相を務める。再度のリー一族による国家運営は「リー王朝支配の復活」と映り、厳しい言論統制、実質的な一党支配、麻薬犯罪から道交法、立ち食いまであらゆる違反行為に厳罰主義で臨む国家体制ともあいまって「明るい北朝鮮」と自嘲気味に表現され続けているのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米失業保険継続受給件数、10月18日週に8月以来の

ワールド

中国過剰生産、解決策なければEU市場を保護=独財務

ビジネス

MSとエヌビディアが戦略提携、アンソロピックに大規

ビジネス

英中銀ピル氏、QEの国債保有「非常に低い水準」まで
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 10
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中