最新記事

イギリス

英国で260万語のイラク戦争検証報告書、発表へ ──チルコット委員会はどこまで政治責任を追及するか

2016年7月1日(金)16時05分
小林恭子(在英ジャーナリスト)

 国民のブレア政権への不満感、「嘘をつかれたのではないか」という疑念はハットン報告書が出たことで、収まるどころかむしろ強くなった。とうとう諜報情報の正確さを問う調査会(「バトラー委員会」)がハットン員会の報告書が出た翌月から検証を始めることになった。

 5カ月後の04年7月、バトラー委員会の報告書が出た。その結論は、戦争反対派にとってはひとまず溜飲が下がるものだった。

 バトラー報告書によると、フセイン政権のイラクが「配備できる生物化学兵器を開戦前には所有していなかった」、「この点からイラクがほかの国より緊急な課題であった証拠はなかった」、「45分の箇所を裏付ける十分な情報がなく、2002年の報告書に入れるべきではなかった」。

 一方、02年の報告書をまとめた統合情報委員会は「不十分な情報を元に性急な報告書を作った」が、その評価や判断が「政策への配慮から特定の方向に引っ張られたという評価は見つからなかった」と報告書は指摘した。

 バトラー報告書は、諜報情報が不正確であったと結論付けながらも、政府の意向によって内容が改変されたことはないとした。

「さらに総括的検証が必要」──チルコット委員会へ

chilcotsmall.jpg
イラク調査委員会のジョン・チルコット委員長(2009年) Matt Dunham -REUTERS

 ここまでに及んでも、ブレア首相および時の政府が「イラク攻撃ありき」で諜報情報をゆがめたのかどうか、あるい「国際法上違法である可能性を認識しつつも、参戦したのどうか」が解明されなかった。

 国民を「だまして」、「違法な」戦争につれていったのかどうかが、はっきりしない。

 そこで、イラクの混迷への責任を問うためにも、政治的な決断も含めての総括的な検証のために立ち上げられたのがチルコット委員会だ。

 委員会は、2009年7月、ゴードン・ブラウン首相(当時)の提唱によって設置された。

 調査の目的は、「2001年から2009年7月末までの、英国のイラクへのかかわりの検証」(委員会のウェブサイトより)だ。どんな政治的な決断があり、どのような行動がとられたかも含め、「何が起きたかをできうる限り正確にかつ確実に把握することで、どんな教訓が学べるかを特定する」ことを狙っている。

 委員会のメンバーはブラウン氏が選択し、高級官僚チルコット卿のほかに歴史家が2人、前ロシア大使、上院議員の5人だが、2015年にチャーチルの伝記で知られる歴史家マーティン・ギルバート氏が亡くなり、現在4人となっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

印南部ナイトクラブ火災、当局が原因調査命令 犠牲者

ワールド

ベセント米財務長官、大豆農場の売却明かす 倫理協定

ワールド

ゼレンスキー氏、和平めぐる米との協議「建設的だが容

ワールド

米USTR代表、中国の貿易合意履行「正しい方向」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    『ブレイキング・バッド』のスピンオフ映画『エルカ…
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中