最新記事

北朝鮮

制裁で北朝鮮外交官の違法な外貨稼ぎにダメージ

これまでは外交官が多額の外貨を中国経由で運搬することが多かったが、経済制裁によりそれが困難になり、エリートの脱北が増える可能性もある

2016年3月7日(月)16時56分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

経済制裁を! 史上最も厳しいとも評される制裁が決まり、金正恩(キム・ジョンウン)体制への包囲網は狭まってきている(2015年、ソウルの反北朝鮮デモ) Kim Hong-Ji-REUTERS

 北朝鮮の経済制裁に、はやくも動きが出てきた。国連安全保障理事会の新たな北朝鮮制裁決議(2日採択)に基づき、フィリピン政府は5日、北朝鮮の貨物船を差し押さえた。

 今回の制裁内容に「原油輸出禁止」と「海外への労働者派遣禁止」の条項が抜けおちていることから、骨抜きにされるという危惧もあるが、中国との大規模な資源取引に制限がかけられたことにより、北朝鮮が必要な外貨収入に関してダメージを与えることは間違いない。

 さらに、世界中から外貨を集める実行部隊とも言える北朝鮮の外交官による違法行為が困難になる可能性もある。

 ほとんどの外交官は、駐在する国と北朝鮮を往来するために、中国とロシアを経由する。つまり、合法、違法を問わず北朝鮮の外交官が稼いだ外貨は、この両国、特に中国を通じて北朝鮮に持ち込まれる。時には、数百万ドル単位の外貨が持ち込まれるケースもあるという。中国の税関は、外交官パスポートを見せると難なく通関できたためだ。

 今回の制裁には、こうした多額の外貨を人の手で運搬する行為を処罰するための条項が設けられており、北朝鮮の外貨稼ぎにダメージを与える可能性が高い。また、比較的自由に動くことができる外交官らが、忠誠資金という名の外貨稼ぎノルマを強要する金正恩体制に見切りをつけて脱北する事例が増えることもあり得る。

 そうでなくても、北朝鮮ではこのところ、官僚などエリートの脱北が相次いでいる。韓国の国家情報院によると、北朝鮮から脱出して韓国入りしたエリートは2013年は8人、2014年は18人、2015年は10月までに20人と増加傾向にあり、中には相当な高官も含まれているという。

(参考記事:金正恩氏の「バイアグラ資金」が盗まれている

 外交官の外貨稼ぎを制限し、さらに北朝鮮国内に入る前に外貨をブロックすることが出来れば、金正恩体制包囲網がかなり狭まり、プレッシャーを与えることが出来るだろう。だからこそ、米国は今回の北朝鮮制裁を「史上最強」と豪語しているのかもしれない。

 制裁が北朝鮮の外貨稼ぎにどれだけ食い込められるか、そしてこれに対する金正恩体制の次の一手に注目される。

(参考記事:金正恩氏が「暴走」をやめられない本当の理由

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ――中朝国境滞在記』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)がある。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。
dailynklogo150.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、新たに遺体受け取り ラファ検問所近く開

ビジネス

米11月ISM非製造業指数、52.6とほぼ横ばい 

ビジネス

マイクロソフトがAI製品の成長目標引き下げとの報道

ワールド

「トランプ口座」は株主経済の始まり、民間拠出拡大に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 3
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 6
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    トランプ王国テネシーに異変!? 下院補選で共和党が…
  • 9
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 10
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中