最新記事

内戦

シリア停戦後へ米ロとトルコが三巴の勢力争い

2016年3月7日(月)17時00分
オーエン・マシューズ

magw160307-02.jpg

空爆で破壊されたアレッポの小学校には児童のカバンが残されていた Khalil Ashawi-REUTERS

「援護」は空爆以外でも

 合意内容の実施後もロシアは「テロリスト」を標的にした空爆を継続できる。誰がテロリストか決めるのはもちろんロシアだ。「ロシアは相手を油断させて消耗させる作戦を取っている」と米オクラホマ大学の中東専門家ジョシュア・ランディスは指摘する。「敵に停戦を呼び掛けておいて、とどめを刺しにいこうという魂胆だ」

 ロシア国防省によれば、ロシア軍機はアサド政権の支配地域にあるラタキア付近の空軍基地から1週間に約510回のペースで出撃している。それでもロシア外務省の報道官は、「シリアでのロシアによる空爆の結果、民間人が死亡したと確信するに足る証拠は提示されていない」との主張を崩さない。

 ロシアは最新鋭のT90戦車もシリア軍に派遣。「おかげで優位 に立ったアサド派の部隊は、アレッポと首都ダマスカスを結ぶ道路に近い要衝の町を包囲している」と、イランの政府系のファルス通信は報じた。

 アサド派とかつての敵との連携強化にもロシアが一役買っている。シリア国営通信は、2月上旬ロシア軍将校とクルド人自治区政府高官がシリア北東部で会談し、アサド政権との軍事協力について協議したと伝えた。

 報道によれば、ロシアはロシア軍が使用予定の空港の強化・拡張のため、ロシア軍兵士200人をトルコとの国境に近いクルド人支配地域の都市カミシリに配備。それと時を同じくして、13年に事実上の自治権を獲得した「ロジャバ・クルド人自治区」の国外代表部第1号がモスクワに開設されている。

【参考記事】対クルド攻撃を優先させるトルコ

 シリアのクルド民主連合党(PYD)は北部国境地帯の多くの地域を支配下に置いている。PYDはトルコで分離独立を目指すクルド労働者党(PKK)と密接な協力関係にある。

 シリアのクルド人部隊はアラブ系やアッシリア系の反政府勢力と同盟を結び、シリア民主軍を結成。アメリカもこの新組織を支援している。

 クルド人部隊はシリアとイラクの地上戦で活躍してきたし、シリアの反政府派の中で最も穏健な勢力であることも分かっている。それでもアメリカはNATOの仲間であるトルコに気兼ねして、クルド人部隊への支援を抑制せざるを得ない。

 PYDにすれば、ロシアであれどこであれ、支援してくれる相手は大歓迎だ。ランディスによると、支配地域の拡大を目指すPYDにとって、「アメリカは当てにならない同盟相手」だ。

 バシャル・アサド大統領はクルド人の分離独立を認めないだろうが、ロシアにとってはクルド人部隊へのテコ入れはメリットがある。ロシア空軍とシリア政府軍の連携でシリアの反政府勢力を追い込めたように、テロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)掃討では、クルド人部隊との連携で大きな戦果が期待できる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EU、ベトナムとの外交関係格上げ 「国際秩序への脅

ビジネス

スズキ、25年の世界販売で日本車3位に 日産が転落

ビジネス

ブラックストーン最大のHF事業、昨年リターンは12

ワールド

ローマ教皇、世界の反ユダヤ主義収束訴え ホロコース
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 3
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大胆な犯行の一部始終を捉えた「衝撃映像」が話題に
  • 4
    パキスタン戦闘機「JF17」に輸出交渉が相次ぐ? 200…
  • 5
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 6
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 7
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 8
    人民解放軍を弱体化させてでも...習近平が軍幹部を立…
  • 9
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 10
    またTACOった...トランプのグリーンランド武力併合案…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 4
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 5
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 6
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 7
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 8
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 9
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 10
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 7
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 10
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中