最新記事

朝鮮半島

北朝鮮核実験と中国のジレンマ──中国は事前に予感していた

2016年1月7日(木)19時36分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

相互依存  昨年10月北朝鮮労働党創設70年記念日に訪朝し、金正恩第一書記と握手する中国の劉雲山 REUTERS/KCNA

 北朝鮮が水爆実験をしたと発表。朝鮮半島の非核化に向けて六か国協議を提唱してきた中国は激怒した。経済援助をしてきた中国にとって北朝鮮を崩壊させるのはたやすいが、それができない中国のジレンマを読み解く。

モランボン楽団ドタキャン時に北の水爆実験を予感していた中国

 昨年10月、冷え切っていた中朝関係を修復させるために、中国共産党中央委員会(中共中央)政治局常務委員会委員(チャイナ・セブン)の党内序列ナンバー5の劉雲山が北朝鮮を訪問した。金正恩(キム・ジョンウン)第一書記は狂喜し、ともに謁見台に立った劉雲山とハグしただけでなく、その手を取って万歳の形に振りあげ、国民に中国の最高指導者の一人が来たことをアピールした。10月10日の北朝鮮労働党創設70年記念日を祝賀するためだった。

 そのお返しの意味もあってか、昨年12月初旬に金正恩肝いりの北朝鮮の女性歌舞団である「モランボン楽団」が訪中し北京で公演を行うことになっていた。

 ところが12月10日に金正恩が「水爆実験の爆音をとどろかせる」と発言したことと、モランボン楽団が舞台背景の巨大スクリーンに長距離ミサイルの発射場面を映すことを知った中国側は、観客のレベルを下げることを決めた。

 当初は習近平国家主席をはじめとしたチャイナ・セブンの一部が観覧することになっていたが、それを降格させ、チャイナ・セブンどころか、中共中央政治局委員(25名)さえ観覧しないことにした。

 それを知った金正恩は激怒し、モランボン楽団を急きょ北朝鮮に帰国させている。

 このたびの北朝鮮の「水爆実験」の報道を受けて、筆者は中国政府関係者を取材したが、中国側は、実はこのときから北朝鮮が近いうちに水爆実験を行うであろうことは予測していたとのことだ。

 劉雲山が昨年10月に金正恩に会ったときに、実は劉雲山は習近平国家主席の親書を携えていて、そこには核実験をしないようにという趣旨のことが書いてあったという。

 にもかかわらず、北朝鮮は水爆実験に向けて突き進もうとしていることを中国は察知していた。

 軍の大規模改革と航空母艦建造中の情報を一刻も早く公開しなければならなかった背景の一つには、何としても北朝鮮の暴走を抑え込みたいという狙いもあったらしい。

 

核実験による自己防御──中国の60年代と同じ

 中国政府側関係者はまた、北朝鮮の現状を「1960年代の中国と同じだ」と表現した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:変わる消費、百貨店が適応模索 インバウン

ビジネス

世界株式指標、来年半ばまでに約5%上昇へ=シティグ

ビジネス

良品計画、25年8月期の営業益予想を700億円へ上

ビジネス

再送-SBI新生銀行、東京証券取引所への再上場を申
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 6
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 7
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 10
    ハメネイの側近がトランプ「暗殺」の脅迫?「別荘で…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中