最新記事

台湾経済

次の台湾総統を待つFTAとTPPの「中国ファクター」

2015年12月24日(木)18時54分
舛友雄大(シンガポール国立大学アジア・グローバリゼーション研究所研究員)

 冒頭で紹介したように、自由貿易そのものに懐疑的な声が国内にある以外に、台湾は国内外でFTA参加に関して多くの課題を抱えている。

 なかでも一番の難点が中国ファクターだ。

 台湾はこれまでに、国交をもつグアテマラなど中南米の国々を中心に8カ国とFTAを締結している。馬英九政権は中国と両岸経済協力枠組協議(ECFA)を結んだ後、2013年に国交をもたないニュージーランドとシンガポールの2カ国とのFTA締結に成功した。これは、両岸関係が安定していたことに加えて、両国が中国とFTAをすでに結んでいたことが功を奏したとされる。

 それを裏付けるかのように、2008年には、シンガポールのリー・クアンユー内閣顧問(当時)が「シンガポールは、台湾が中国との関係を改善した場合においてのみ、台湾とFTAを締結することができる」と発言したと報道された。ニュージーランドとの締結では、中国を刺激するのを避けるため、官庁の外で署名儀式が執り行われた。

 馬英九政権は大陸とECFAフレーム下の各協定を進め、その後でTPPやRCEPに参加するという構想を持っていた。だが、中国との経済協力が「深水区」(難度が増した領域)に達すると、中国への経済依存が政治的な統一につながるという懸念が強まり、反対派の学生運動のきっかけになった。

 その後、台湾のFTA戦略はモメンタムを失いつつある。その進捗具合のよいバロメータとなるのが、台湾が関係強化をすすめる東南アジア諸国だ。台湾はインドネシア、フィリピン、タイ、マレーシアとFTAの実行可能性の調査を行なっているが、締結に向けた目処は立っていない。

 これらの国は、「一つの中国」を背景に、中国が自国―台湾間のFTAに反発することを恐れており、慎重な姿勢をくずしていない。例えば、2014年8月、中国の黄恵康駐マレーシア大使が、FTA締結を含む台湾とマレーシアが行なう一切の公式活動に反対すると述べている。一方、台湾側はこれらの国に対して、FTAは純粋に経済的なものであるため心配はいらない、と説得を試みている。

「悲しい話だ」台湾のある行政院大陸委員会幹部は、一連の動きを評してこう言った。「サービス貿易協定について、市民社会ともっとコミュニケーションをとるべきだった。この協定を結んでいれば、おそらく他の国々とFTAを結ぶよりよい機会があっただろう」

 今後の動向はどうだろうか。1月に投票が行なわれる総統選挙では、大陸との接近を警戒する野党・民進党の蔡英文候補が当選を有力視されている。今年6月、彼女は訪米期間中に「(台湾は)TPPに参加する切迫した必要性がある」と述べ、TPPの次のラウンドでの参加を目指す方針を明らかにした。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

午前の日経平均は反落、一時700円超安 前日の上げ

ワールド

トルコのロシア産ウラル原油輸入、3月は過去最高=L

ワールド

中国石炭価格は底入れ、今年は昨年高値更新へ=業界団

ワールド

カナダLNGエナジー、ベネズエラで炭化水素開発契約
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 9

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 10

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中