最新記事

インド

ヒンディー語強制策が多言語国家インドを分断

英植民地との決別 とはいえ、100以上もの他の言語を誇りとする民族をモディはどうまとめるのか

2014年8月22日(金)14時39分
マンダキニ・ガーロット

選挙戦で掲げたヒンドゥー至上主義を実践するモディ Amit Dave-Reuters

 政府当局のソーシャルメディアではヒンディー語を使うこと。インドの内務省は5月末、そんな通達を出した。モディ首相が就任した翌日のことだ。「政府や公務員のツイッターやフェイスブック、YouTube、グーグル、ブログのアカウントではヒンディー語を使用する、またはヒンディー語を優先する形で英語と併用すること」と通達には書かれている。

 インドでは国全体で100言語以上が使われている。公用文書でもヒンディー語と英語に加えて、20言語が採用されてきた。ヒンディー語を話す国民は、人口の約40%にすぎない。

 モディ率いるインド人民党(BJP)はヒンドゥー至上主義政党とされ、北部のヒンディー語地域の支持を追い風に5月の総選挙に勝利。今回のヒンディー語使用促進も、インド本来のものを重んじて外国のものは排斥するという同党らしい方針だ。しかし通達が政界で波紋を広げたため後日、ヒンディー語がよく使われる北部諸州に限った命令だと釈明した。

 とりわけ南部から強い反発が起きた。「民衆にヒンディー語を押し付けようとしている。他言語を話す人々を、二級市民として扱う試みだ」と、タミル語を公用語とするタミルナド州のカルナニジ元首相は非難する。

 モディは、インド独立後に生まれた世代で初の首相だ。選挙戦でも主張したとおり、イギリスの植民地だった過去と決別すべきと考えている。英語は12億4000万人の国民の共通語として使われるし、モディ自身も流暢に話す。それでも彼は慣例を破って、外国要人との会談ではわざわざヒンディー語で話し、通訳を使う。

民族対立の歴史と重なる

「意外な政策ではないが、これほど早くギアチェンジしたことには当惑させられる」と、イン ド諸言語中央研究所のラジェシュ・サチディーバ元所長は話す。BJPの首脳部が親英派エリート層でないことも関係しているだろうとも分析する。「彼らは英語が得意でなく、ヒンディー語のほうが楽なのだ」

 ネール初代首相時代の63年に制定された公用語法で、英語はヒンディー語と並ぶ公用語とされた。それはヒンディー語を唯一の公用語にするという40年代からの運動に対抗し、その他の言語を母語とする国民の不安を払拭するための立法だった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G7外相、イスラエルとイランの対立拡大回避に努力=

ワールド

G7外相、ロシア凍結資産活用へ検討継続 ウクライナ

ビジネス

日銀4月会合、物価見通し引き上げへ 政策金利は据え

ワールド

アラスカでの石油・ガス開発、バイデン政権が制限 地
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中