最新記事

ノルマンディー上陸70周年

フランスが忘れない虐殺の記憶

ナチス親衛隊に皆殺しされた村を廃墟のまま保存し続ける意味

2014年6月5日(木)17時40分
リネット・アイブ

惨劇の舞台 642人の住民がナチス親衛隊に虐殺されたオラドゥール・シュル・グラヌ村 Pascal Rossignol-Reuters

 ナチス・ドイツの支配下にあったフランスのノルマンディー海岸に連合軍が上陸してから、6月6日で70年。記念式典には欧州各国の首脳やオバマ米大統領、ウクライナ危機で対立するロシアのプーチン大統領も顔をそろえ、第二次大戦の潮目を変えた歴史的なノルマンディー上陸70周年を祝う予定だ。

 フランスでは、ノルマンディー以外にも戦争の記憶を今に伝える場所が少なくない。なかでも象徴的なのが、フランス中南部のリムーザン地方のオラドゥール・シュル・グラヌ村。ナチス親衛隊による大虐殺の舞台となった村だ。

 ノルマンディー上陸作戦直後の1944年6月10日、フランスのレジスタンス組織によるナチス司令官誘拐計画への報復としてナチス親衛隊がオラドゥール・シュル・グラヌ村を襲撃し、男性を次々に銃殺。500人ほどの女性と子供が逃げ込んだ教会には火が放たれ、子供1人を除く全員が焼け死んだ。村はすべて焼き払われ、犠牲者642人の大半は身元さえ判別できなかった。 
 
 当時、亡命政府を率いていたシャルル・ド・ゴールは、ナチスの蛮行を後世に伝えるため、破壊された村を再建しないことを決めた。おかげで村は今も廃墟同然の状態で保存されており、近隣には虐殺の際に住民が身に着けていたものなどを展示する博物館もある。

 昨年夏にはドイツのガウク大統領がオランド仏大統領とともに村を訪れ、虐殺を生き延びた数少ない村民と面会した。さらに今年1月にはドイツの検察当局が、虐殺に加わった元ナチス親衛隊の男(88)を起訴している。
 
 オラドゥール・シュル・グラヌ村を訪れる人は年間13万人。フランスでは、こうした「戦争ツーリズム」が一大産業となっている面もある。ノルマンディー上陸70周年の今年は特に盛り上がりをみせており、観光客数は推定6割増。第一次大戦最大の激戦地となったフランス北部のソンムや、ノルマンディー上陸作戦の舞台オマハ・ビーチも、オラドゥール・シュル・グラヌをはるかに上回る数の観光客を集めている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税の影響で

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日

ビジネス

マクドナルド、世界の四半期既存店売上高が予想外の減
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中