最新記事

東アジア

北朝鮮「新兵器」は中国製か

平壌の軍事パレードで中国製の弾道ミサイル発射台が?
中国が二枚舌を使ってまで北朝鮮をひそかに支援する理由

2012年6月7日(木)12時53分
ジョエル・ウスナウ(プリンストン大学ウッドロー・ウィルソン公共・国際関係大学院フェロー)

血の同盟 発射台が中国製なら安保理決議への重大な違反(4月15日の軍事パレード) Bobby Yip-Reuters

 もし事実だとすれば、由々しき事態だ。報道によると、北朝鮮が4月15日に平壌で行った軍事パレードで披露した兵器の中に、中国製の弾道ミサイル発射台車両が含まれていたという。

 報道が正しければ、中国は国連安保理決議に対する大胆な違反行為を行っていることになり、北東アジアの核拡散防止を目指す取り組みにおける中国の信頼性が大きく損なわれる。一方アメリカ政府は、北朝鮮に対する影響力は限られている、と言い続けてきた中国の主張を突き崩すチャンスを手にする。

 専門家によると、問題の弾道ミサイル発射台は中国人民解放軍が10〜11年に製造したものと酷似しているという。この発射台で発射可能なICBM(大陸間弾道ミサイル)の射程は6000キロ。つまり、アメリカのアラスカ州が射程圏内に入る。

 平壌の軍事パレードに登場したミサイル発射台は、おそらく中国で製造されたか、中国から設計図の提供を受けて製造されたものらしい。事実関係の検証はまだできていないが、「すべての部品は中国から輸入されたもの」だと、韓国政府当局者は述べたという。

 もし、この1、2年間に人民解放軍が何らかの形で北朝鮮に弾道ミサイル発射台の技術を提供していたとすれば、中国は国連安保理決議に違反したことになる。

 国連安保理は、北朝鮮が06年に初めて核実験を行った際に、北朝鮮へのミサイル関連物資の提供禁止などを盛り込んだ制裁決議「安保理決議1718」を採択。09年に北朝鮮が再び核実験を行うと、「安保理決議1874」を採択し、制裁を強化した。

中国軍の暴走ではない?

 中国がこのような決議違反を行ったとすれば、ほぼ前例がないことだ。対北朝鮮制裁の実施を担当する米国務省当局者によれば、中国当局は中朝国境の密貿易取り締まりに関して「最低限」のことしかしていないが、政府自体がこれほど露骨で大々的な安保理決議違反を行った事例は、これまで確認されていないという。

 そもそも中国政府には、安保理決議に違反したくない強い理由がある。「責任ある大国」という評判を築く上で大きな障害になるし、東アジアの地域紛争を抑え込み、地域の安定を保つという基本的な国益を実現するための仕組みが損なわれかねないからだ。

 では、どうして今回のような事態が起きたのか。北朝鮮が公開情報を基に中国製のミサイル発射台をコピーしたのでない限り、可能性は2つだ。

 1つは、軍が暴走して文民の高官の同意なしに行動した可能性。確かに、07年に人工衛星破壊実験を行ったときも、昨年にロバート・ゲーツ米国防長官の訪中時にステルス戦闘機の試験飛行を行ったときも、指導部は事前に知らされていなかったという。

 今回もタイミングは奇妙だ。4月13日に北朝鮮が試みた長距離弾道ミサイル(北朝鮮は「人工衛星」と称している)の発射実験を厳しく非難し、追加制裁の可能性も示唆した国連安保理決議に中国が同意するなかで、平壌の軍事パレードに中国製らしき弾道ミサイル発射台が登場したのだから。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、11月CPIが予想下回る 

ビジネス

トランプ氏、FRB議長候補のウォラー理事と面会 最

ワールド

トランプ氏、大麻規制緩和の大統領令に署名 分類見直

ワールド

米政権、ICC判事2人に制裁 イスラエルへの捜査巡
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末路が発覚...プーチンは保護したのにこの仕打ち
  • 2
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 6
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 7
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 8
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 9
    円安と円高、日本経済に有利なのはどっち?
  • 10
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中