最新記事

北欧

スウェーデン人がテロに動じない理由

アフガン派兵が自爆テロの動機と言われるが、真の原因は政治でも宗教でもないことを国民は知っている

2010年12月14日(火)18時13分
アン・トーンクビスト

あわや大惨事 買い物客でにぎわうテロ現場近くで捜査を行う警察官 Scanpix Sweden-Reuters

 先週末に首都ストックホルムで自爆テロが起きたスウェーデン。同国軍のアフガニスタン駐留への反発が、自爆テロ犯の動機とみられているが、週が明けても政府は冷静な対応を保っている。

 容疑者はイラク生まれのスウェーデン人、タイムール・アブデルワハブ(28)。彼はガスボンベを積んだ車を繁華街で爆発させる狙いだったが、繁華街に入る前に誤って爆発が起きてしまったようだ。2度目の爆発によって、アブデルワハブの腹部は吹き飛び、歩行者は煙に包まれたという。爆発しなかったパイプ爆弾も彼の死体のそばで見つかった。

 爆発の少し前、スウェーデンの報道機関と警察には同国軍のアフガニスタン駐留と、イスラム教の預言者ムハンマドを風刺する漫画を描いた同国の漫画家を非難する内容の電子メールと音声ファイルが届けられていた。

「これは政治的なゲームだ」と、公務員のスザンナ・オリビンは、爆発の翌々日に現場近くを歩きながら語った。「アフガニスタンを理由にしなくても、何か別の理由を作っていたと思う。自分を粉々に吹き飛ばすなんて狂ってる」

 スウェーデンは長く国際社会で中立な立場を維持しているが、アフガニスタンでの国際治安支援部隊(ISAF)には500人を派兵している。

北欧初の自爆テロにも「驚かない」

 IT企業の社長ヨハン・イッターホルム(34)は多くのスウェーデン国民と同じく、アフガニスタンからの撤退を望んでいる。だがそれはスウェーデン国内でのテロの危険性を考えてのことではなく、駐留軍の活動が失敗していると思っているからにすぎない。「テロが起きたのは、それほど驚きではない」と、イッターホルムは言う。「大都市では定期的に起きるものだ」

 スウェーデン国立防衛大学のテロ専門家マグナス・ランストルプは、もはやスウェーデンもテロの脅威から免れられないと考えている。だがそれでも、テロによってアフガニスタン駐留の支持者が考えを変えることはないだろうと言う。「逆効果かもしれない。(駐留への)支持が強まる可能性もある」

 ほかの欧州諸国は既に、アメリカが主導するアフガニスタンでの戦闘から撤退または見直しを図っている。国内外からの圧力によってアメリカ自身も、戦略の見直しを迫られている。オバマ政権は2014年までに全部隊を撤退させると表明した。

 これまでスウェーデンでテロが起きたことはほとんどない。しかし今年、ソマリアのイスラム武装勢力アルシャバブとの関わりがあるとしてソマリア出身のスウェーデン人の若者2人が逮捕された事件は、大きく報道されて国家の安全保障が転機を迎えているという議論が盛り上がった。同国のフォーカス誌は最近、治安当局が移民コミュニティーにおけるテロ組織の勧誘活動に一層の警戒を払っていると報じた。

「今回の爆破事件によって、人々の移民に対する目が変わらないよう願う」と、コートジボワール系移民の学生エリック・ローブルは言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国と中国、外交・安保対話開始へ 3カ国首脳会合前

ワールド

岸田首相、日本産食品の輸入規制撤廃求める 日中首脳

ワールド

台湾の頼総統、中国軍事演習終了後にあらためて相互理

ビジネス

ロシア事業手掛ける欧州の銀行は多くのリスクに直面=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 2

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 3

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 4

    カミラ王妃が「メーガン妃の結婚」について語ったこ…

  • 5

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 6

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 7

    胸も脚も、こんなに出して大丈夫? サウジアラビアの…

  • 8

    アウディーイウカ近郊の「地雷原」に突っ込んだロシ…

  • 9

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 10

    エリザベス女王が「誰にも言えなかった」...メーガン…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 4

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 5

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 6

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 7

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 8

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃…

  • 9

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 10

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中