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悪徳ヒーローがテレビで大暴れ

Too Much of a Bad Thing

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ミスは絶対に犯さない

 一方、『ザ・シールド』の完結編、シーズン7の最終回では、意外に地味な結末が用意されていた。手荒な捜査で鳴らしたマッキー刑事は、ラストで派手に射殺されるだろうというおおかたの予想を裏切って生き延びた。だが、家族や友人との絆を断ち切られ、単調なデスクワークをこなすことに......。その孤独な背中が深い余韻を残す、文句なしの完璧なエンディングだ。

 視聴者をあっと言わせるような派手な趣向に走りすぎないことが「番組を長続きさせるこつ」だと、このドラマの生みの親ショーン・ライアンは言う。

 もう一つアンチヒーローもので気になるのは、すねに一つも二つも傷をもつヒーローやヒロインが、その行動では完全無欠なこと。『24』のジャック・バウアーは次々に恥知らずな決断を下すが、結果的にはすべてが正解だ。『デクスター』で主人公の連続殺人鬼が殺すのは、法の目を逃れた凶悪犯だけだ。

 正統派のヒーローはミスも犯す。『ロー&オーダー』の正義感に燃える刑事たちは、最初に真犯人でない人物を逮捕することがよくあった。だが、デクスターが罪のない人を殺したり、ジャックがテロと無関係な人に自白を強いることは決してない。アンチヒーローには、まちがいを犯すという贅沢は許されない。視聴者も損をしていることになる。主役が自分のミスの尻ぬぐいをするスリル満点の展開は見られない。

 インターネット・バブルに住宅バブルときて、今度はアンチヒーロー・バブル。いずれにせよ、どんな斬新そうな趣向も食傷ぎみになったら終わりが近い。

 先の読めないこの時代に、テレビが必要としているのは、90年代に人気のあった『ナイスサーティーズ』に出てくる30代の夫婦のようなキャラクターだろう。世界を救うでもなく、世界を食いものにするのでもなく、どこかで静かに暮らしている人々だ。ドラマはもうドラマチックでなくてけっこう。現実がこれだけドラマチックなのだから。

[2009年1月21日号掲載]

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