アメリカに初めて「ゴッホの絵画」を輸入した男...2500点の名画を集めた大富豪バーンズの知られざる「爆買い人生」

SHOPPING FOR A MUSEUM

2025年4月17日(木)15時00分
ブレイク・ゴプニック(美術評論家)

実業家アルバート・バーンズと画家ウィリアム・グラッケンズ

高校時代に野球のチームメイトだったバーンズ(左)とグラッケンズ(右)。後に再会し世界屈指のコレクションの土台を築いた GLACKENS FAMILY PHOTOGRAPHS, BARNES FOUNDATION ARCHIVES, PHILADELPHIA

ミレーなどの画家が、最大限の情緒を持って描くフランスの農民。バルビゾン派の画家が描く、パリ近郊の森の美しい夜明け。ジャンジャック・エンネルの絵筆によって命を吹き込まれた、男の心を見透かすような視線を送る赤毛の女。

製薬業で財を成したアルバート・バーンズは、フィラデルフィアの高級住宅街に立つ大邸宅で、味気ない大きな壁をなにかで埋めたいと考えた。そして金ぴか時代の大富豪の誰もが所有していたような美術品を買い求めた。


だが、やがて、画商たちに、ろくでもない作品を売り付けられていたことに気が付いた。

「(画商たちは)金持ちをカモにしているだけだ」と、バーンズの高校時代の同級生であるウィリアム・グラッケンズは言う。画家のグラッケンズは、そうした事情をよく知る立場にあった。

バーンズとはフィラデルフィアの名門セントラル高校で一緒に野球をした仲だが、卒業から20年たった今はアメリカの前衛芸術運動のリーダーとなり、ニューヨークにおけるアッシュカン派の成立にも大きな役割を果たした。

アッシュカン派は、当時のコレクターや画商が好むこぎれいな作風や主題ではなく、雑多で質素な都会の日常を描くリアリズムを特徴としていた。

リーダーであるロバート・ヘンライの言葉を借りれば、彼らが重視したのは、アートのためのアートではなく、「生活のためのアート」だ。そこに詩的なきらめきが入る余地はなかった。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

タイとカンボジア、攻撃停止で合意とトランプ氏 12

ビジネス

FRB現行策で物価目標達成可能、労働市場が主要懸念

ワールド

トルコ大統領、プーチン氏に限定停戦案示唆 エネ施設

ワールド

EU、来年7月から少額小包に関税3ユーロ賦課 中国
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 3
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナの選択肢は「一つ」
  • 4
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 5
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 8
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 9
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 7
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中