ニュース速報

ビジネス

焦点:中国、日本国債売却の可能性 ドル調達コスト上昇一因に

2015年10月13日(火)16時54分

 10月13日、中国が9月に日本国債を大量売却した可能性が浮上している。写真はソウルで2010年10月撮影(2015年 ロイター/Truth Leem)

[東京 13日 ロイター] - 中国が9月に日本国債を大量売却した可能性が浮上している。人民元安定のためにドル売り/元買い介入資金を確保する目的があったとの見方が、市場では多い。ドル/円スワップ市場では、期末のドル調達コスト上昇の一因になったとみられており、今後の動向が注目されている。

<円債を4兆円超売却した海外勢>

日本の財務省によれば、非居住者投資家(海外投資家)は、9月下旬(9月21―30日)に中長期債を1兆1904億円、短期債を3兆4602億円、計4兆6506億円処分している。

財務省は国内証券の売却主体を公表していないが、市場では「中国などの大手の投資家が、日本国債をロールオーバーせず、償還資金(円)を手元に残した可能性がある」(証券会社)との見方が有力だ。

9月は国債の償還が集中し、5、10、20年物の国債の償還があったほか、短期債では3カ月物の償還も2回あった。

中国人民銀行(中央銀行)によれば、9月末時点の中国の外貨準備高は3兆5140億ドル。過去最大の減少幅だった8月の939億ドルからは縮小したが、9月も433億ドル減少した。日本円で約5兆2000億円。海外勢の円債売却額に近い。

<ドル売り資金調達で円資産売却も>

外貨準備の大幅な減少は、中国が8月の人民元切り下げ後、元相場の安定化に向け、ドル売り/元買い介入を実施していることが背景だ。ただ、ドル売り介入の原資となるドル資金の確保には、必ずしも米国債などドル建て資産の取り崩しが必要なわけではなく、円資産を取り崩して、為替市場でドルに換えることも可能。

中国のドル売り規模は、外貨準備の目減り幅より大きいとの推計もあり、米国債以外にも、低金利の円建て資産や欧州通貨建て資産などの一部を取り崩した可能性を指摘する市場関係者もいる。

「中国が、外貨準備の中の米国債を取り崩して介入資金に充当するとすれば、需給バランスに影響を及ぼし、米金利の上昇要因となるはずだ」と、三井住友銀行・チーフストラテジストの宇野大介氏は述べる。実際には9月中旬以降、米国債利回りは低下傾向にあり、介入資金をねん出する目的でドル以外の資産をも売却した可能性がある、と同氏は推測する。

<9月下旬に急騰した円投/ドル転コスト>

こうした見方を裏付ける材料として、複数の市場関係者が注目するのが、9月下旬に急騰した円投/ドル転コストだ。

円資金を担保にドルを借り入れる円投/ドル転スワップでは、ドル調達コストが9月第2週から急上昇。9月18日には、1カ月物コストが158ベーシスポイント(bp)の幅で、日米金利差をベースとする理論値から上振れした。かい離幅はユーロ危機が深刻化した2011年11月以来の高水準となった。

円投/ドル転コスト上昇の背景には、日本のソブリンリスクの上昇で、海外金融機関が円資産の保有を敬遠する傾向が目立つ一方で、本邦勢の対外証券投資や対外直接投資が拡大。これに応じてドル資金需要が強まっていることがある。

しかし、9月にみられたドル調達コストの急騰は、これらの構造要因に加え、中国による介入原資確保の動きが加わった可能性があるとの指摘が、市場では多い。

円債売却後のドル調達のフローは、スポット市場でのドル買い/円売りニーズとして表れるほか「ドル/円スワップでは、ドル不足/円過剰要因として、ドル調達コストの上昇圧力となる」(金融機関)ためだ。

<売却再開に警戒>

ある国内エコノミストは、日本国債売却の理由として「利回りの低い日本国債を売却するという実務的視点に加え、米中の政治日程からみても、9月に米国債を大量売却することはタイミングが良くなかったのだろう」とみる。

9月下旬に中国の習近平国家主席は米国を訪問し、25日にはオバマ大統領と首脳会談を行っている。

日本の財務省によれば、中国の円建て債券保有残高は2014年末に9.46兆円。2013年末の14.34兆円から減少しているが、まだ規模は大きい。そこから5兆円弱を売却したとしても、5兆円弱が残っている計算だ。

人民元相場は表面上は落ち着きをみせているが、中国から資本逃避の動きが強まれば、ドル高/元安圧力が再燃し、円債の一段の売却も予想される。

為替市場を通じたドルの調達コストは、9月中旬からは大幅に低下したものの、現在もなお、3カ月―6カ月物で1%に迫っている。

既に高いドル調達コストに、中国要因が加われば「(本邦勢は)最終的に、ドル債投資を縮小する方向となりそうだ」(金融機関)との見通しも出るなど、中国による日本国債売却の観測は、日本の投資家の動向にも大きな影響を与えようとしている。

(森佳子 編集:田巻一彦)

ロイター
Copyright (C) 2015 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

メラニア夫人、プーチン氏に書簡 子ども連れ去りに言

ワールド

米ロ首脳、ウクライナ安全保証を協議と伊首相 NAT

ワールド

ウクライナ支援とロシアへの圧力継続、欧州首脳が共同

ワールド

ウクライナ大統領18日訪米へ、うまくいけばプーチン
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 5
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 6
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 7
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 8
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 9
    【クイズ】次のうち、「軍事力ランキング」で世界ト…
  • 10
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた「復讐の技術」とは
  • 4
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 5
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 6
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 7
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 8
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 9
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 10
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失…
  • 6
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中