コラム

CIA元諜報員が「生成AIはスパイ組織の夢のツール」と明言する理由

2023年06月01日(木)12時10分
生成AI

MF3D/ISTOCK

<生成AIを駆使すれば、敵国の世論にひそかに影響を与え社会を揺さぶる宣伝工作が、驚くほど簡単で効果的にできる>

世界がますます混乱した、危険な場所になろうとしている。なにしろ真実を証明することが一層難しくなり、嘘がこれまで以上に多くの人を魅了しようとしているのだから。

政府が転覆し、社会が崩壊する可能性もある。なぜか。各国の情報機関も悪意あるアクターも、対話型AI(人工知能)「チャットGPT」のような大規模言語モデル(LLM)を利用したAIシステムを積極的に利用すると考えられるからだ。

新しい通信技術やソーシャルメディアを駆使した秘密工作は、既にこの10年間にウクライナやイギリス、スウェーデン、フランス、インド、香港、アメリカなどの世論を動かし、世界情勢に影響を与えてきた。

だが生成AIは、これまでになく細かな部分まで高度に調整された文章を作り出すことにより、特定の個人や集団の意見に影響を与え、政府や社会を揺さぶる能力を情報機関に与える。今のところそれを阻止できる個人や政府は見当たらない。

チャットGPTを開発した米オープンAI社のサム・アルトマンCEOは5月16日、米上院司法委員会で、「この技術がおかしなことになれば、壮大なレベルになり得る」と証言し、政府による規制が必要だと訴えた。

OECD(経済協力開発機構)やEUも最近、生成AIの脅威と将来性について専門家の意見を聞き、その利用法に関するガイドライン作りに乗り出した。

だが、国家間の競争が絡んでくると、問題は複雑になる。CIAのラクシュミ・ラーマンAI部長が、「われわれは間違いなく、最新技術を活用する必要がある」と語るように、敵対勢力に後れを取る(そして劣勢に立たされる)不安から、各国の情報機関は競ってこのパワフルな最新技術を使おうとするだろう。

米国防総省のロバート・スキナー国防情報システム局長官も最近、生成AIについて、「歴史的に見ても、極めて破壊的な技術」であるとし、「その能力と活用方法を敵よりも先に十分に理解するために、業界の助けが必要だ」と述べている。

一方、米国家情報長官室(DNI)は、毎年発表するグローバル脅威評価報告書で、初めてまるまる1章を割いて、「デジタル権威主義」(テクノロジーを利用した国家の監視・管理体制)の脅威を説いている。

情報機関の主な機能は2つある。情報収集と、CIAが秘密工作と呼ぶものだ(ソ連やロシアの情報機関は「積極措置」と呼ぶ)。米政府の定義では、秘密工作とは、外国の経済、軍事、政治情勢をひそかに変える活動のこと。ここで生成AIは最大の破壊力を発揮するだろう。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRB、年内は金利据え置きの可能性=ミネアポリス連

ワールド

ロシアとウクライナの化学兵器使用、立証されていない

ワールド

米、イスラエルへの兵器出荷一部差し止め 政治圧力か

ワールド

反ユダヤ主義の高まりを警告、バイデン氏 ホロコース
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 2

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 3

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 6

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 7

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 8

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 9

    ハマス、ガザ休戦案受け入れ イスラエルはラファ攻…

  • 10

    プーチン大統領就任式、EU加盟国の大半が欠席へ …

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story