最新記事
中東

「株式会社ハマス」の時価総額は5億ドル超、世界各地の系列企業の資金網がガザを支える

HAMAS, INC.

2024年2月9日(金)10時36分
ショーン・オドリスコル(犯罪捜査担当)
世界に広がるハマスの資金網を追う

FROM TOP: DIBROVA/ISTOCK, PICTURELAKE/ISTOCK, DIO5050/ISTOCK, CASPER1774STUDIO/ISTOCK

<【本誌調査報道】ハマスには関連企業が多数あり、その資金網はヨーロッパにも及ぶ。不動産取引とフロント企業を駆使して利益を還流させる。その複雑なシステムを暴く>

瓦礫の山と化したパレスチナ自治区ガザの惨状が、まるで別世界の出来事に思えてくる。

ここはトルコの古都イスタンブール、それもボスポラス海峡に面するゴールデンホーンから程近いAGプラザ。

名門イスタンブール商科大学のゲスト・キャンパスという位置付けで、商業施設に加えて素敵なテラスやプールもあり、外国の優秀な人材やハイテク企業を迎え入れることになっている。

だがAGプラザとガザ地区は裏でつながっている。

その開発会社を支配する人物が、実は米財務省の言う「ハマス分子」だからだ。

ここだけではない。ガザ地区を実効支配してきたイスラム組織ハマスには、国境を越えて必要な資金を調達する膨大な裏ネットワークがあるようだ。

本誌が中東各地の企業情報とアメリカ政府の制裁リストを綿密に照合してみたところ、中東各地にハマス幹部の関与する企業が多数あり、そこを経由してガザ地区に資金が流れている構図が明らかになった。

そういう資金還流を黙認している国があると指摘する専門家もいる。

そうであれば、たとえイスラエルが軍事力でガザ現地の組織を「壊滅」させたとしても、海外からの資金流入は止まらない。

そこに気付いたからだろう、アメリカのバイデン政権は去る1月5日、ハマスの資金源を断つために役立つ情報の提供者に最大1000万ドルの懸賞金を出すと発表している。

建設・不動産業界で暗躍

本誌の調査で浮かび上がったのは、あるイエメン国籍の男。

この人物はアラブ首長国連邦(UAE)にあるハマス系不動産会社(ビジネス街に1億5000万ドル相当の不動産を所有)の共同オーナーであり、トルコ市場に上場するハマス系建設会社の共同創設者でもあり、サウジアラビアにあるハマス系企業の株式の2割を保有し、スーダンにあるハマス系企業の役員に名を連ねてもいる。

ヨルダン川西岸から来た不審な会計士もいる。この男はトルコとスーダン、サウジアラビアで4つの建設・不動産会社の財務に関与し、中心的な役割を果たしている。

イスラム系テロ組織アルカイダの創設者ウサマ・ビンラディン(故人)と密接な関係にあった大富豪が、昨年末にスペインで登記した会社もハマス絡みだ。

米財務省は、スーダンに拠点を置くこの人物を「ハマスの資金源」とみている。

米財務省の2022年5月24日の報道発表によると、こうしたハマス系企業の時価総額は合計で5億ドル以上と推定される。

またイスタンブールのAGプラザを開発したトルコ企業の場合、18年時点で株式の75%をハマス系の複数の人物が所有していたという。

同年、その会社は複数のハマス幹部に1500万ドル相当の株式を融通しようとした形跡がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米大学のガザ反戦デモ、バイデン氏再選妨げずと側近 

ビジネス

米MS、「コールオブデューティ」をサブスク提供へ=

ビジネス

豪BHP、英アングロ買収案の引き上げ必要=JPモル

ワールド

サウジ皇太子が訪日を延期、国王の健康状態受け=林官
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 5

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 6

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 7

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 8

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 9

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 10

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中