最新記事
タイ

人気野党を解党させようとする体制派と、それぞれの「地雷」・タイ総選挙

2023年5月9日(火)17時18分
セバスチャン・ストランジオ(ディプロマット誌東南アジア担当エディター)
ペートンタン

最大野党タイ貢献党を率いるタクシン元首相の次女ペートンタン ANDRE MALERBAーBLOOMBERG/GETTY IMAGES

<40%を超える支持を集める貢献党を率いるのは、亡命生活を送るタクシン元首相の娘。しかし、政権を組むには貢献党にも「地雷」が...>

タイの体制派は5月14日の総選挙を前に、最も人気のある2つの野党の解党を画策しているという噂が広まっている。この2党、タイ貢献党と前進党は直近の世論調査の数字も好調で、軍主導の現体制を覆しかねない勢いを見せている。

現地メディアのタイ・エンクワイアラー紙によると、体制派が最も懸念しているのは、王室批判を罰する不敬罪の改正を含む前進党の公約だ。これまで彼らはこの法律を頻繁に利用して、反対意見を封じ込めてきた。

前進党が世論調査で着実に支持を伸ばしているため、体制派の危機感は一気に高まっているようだ。4月末の調査では支持率19.32%。プラユット首相率いるタイ団結国家建設党の8.48%、軍が支援する与党・国民国家の力党の7.49%を大きく上回った。

前進党については、不敬罪廃止の姿勢が解党の口実に使われることは間違いない。一方、貢献党の場合はそれほど単純ではない。同党は亡命中の億万長者タクシン元首相との関係が強く、タクシン嫌いの王室関係者と軍は一貫してその影響力をタイ政治から排除しようとしてきた。

タクシンは2001年と05年の総選挙で、それまで無視されていた北部と北東部の農村票を掘り起こし、地滑り的圧勝を収めた。

それ以来、タクシン派の政党は全ての総選挙で勝利し、体制派は軍事クーデター(06年と14年)から強引な法の適用まで、タクシン派排除のために非民主的手法に頼らざるを得なかった。

今回の総選挙もタクシン派勝利の可能性が高く、貢献党は前出の世論調査で41.37%の支持を集めている。

最近はタクシンの次女ペートンタン率いる貢献党が、実利主義的判断で体制派と何らかの政治的合意に達したとの報道も出ている。

だが貢献党主導の政権が成立すれば、世界各地で亡命生活を続けるタクシンの帰国に道を開く可能性がある。この点が体制派にとっての深刻な懸念材料だ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米イラン攻撃、国際法でどのような評価あるか検討必要

ワールド

ウクライナ首都と周辺に夜間攻撃、8人死亡・多数負傷

ワールド

イスラエル、イラン首都に大規模攻撃 政治犯収容刑務

ワールド

ゼレンスキー大統領、英国に到着 防衛など協議へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「過剰な20万トン」でコメの値段はこう変わる
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり得ない!」と投稿された写真にSNSで怒り爆発
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
  • 6
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 7
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    EU、医療機器入札から中国企業を排除へ...「国際調達…
  • 10
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 6
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 7
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 8
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 9
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
  • 10
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中