最新記事

ウクライナ戦争

【調査報道】ロシア軍を「戦争犯罪」で糾弾できるのか

ARE THEY WAR CRIMES?

2022年8月17日(水)17時50分
ウィリアム・アーキン(元米陸軍情報分析官)
ウクライナ人男性

クレメンチュクのショッピングセンター爆撃で負傷した45歳の男性 METIN AKTASーANADOLU AGENCY/GETTY IMAGES

<個々の虐殺や拷問はともかく、爆撃による民間人の犠牲は「戦争犯罪」に当たらない可能性がある。物議を醸すことを覚悟で指摘させてもらえば、実はウクライナ軍も民間人の死傷者発生に一役買ってきた>

この戦争で、ロシアは2万5000以上もの戦争犯罪を犯している──ウクライナ側はそう主張し、ロシアの兵士や軍人を、可能ならば大統領のウラジーミル・プーチンまでも法廷に引きずり出そうと、証拠集めに励んでいる。

ほとんどは明々白々な事案だ。法的な手続きを踏まずにその場で処刑するといった不法な殺害はもちろん、民間人の強制収容、国外追放、「失踪」の例は枚挙にいとまがない。拷問や性的暴行の被害も多い。

しかし爆撃による民間人の無差別殺傷を「戦争犯罪」として立件するのは極めて困難だ。

言うまでもないが、国際法上、市街地などへの無差別爆撃は許されない行為だ。そこで本誌は、2カ月かけてウクライナにおける該当事案25件を精査してみた。

すると、意図的に民間人を狙ってはいないというロシア政府の主張にも一定の信憑性があることが分かった。

magSR20220817warcrimes-chart.png

本誌が調査した犠牲者数が多い25件の爆撃事案 NEWSWEEK

ウクライナ当局に取材したところ、戦争犯罪として現在調査しているのは民間施設等への損害約5000件、民間人の不法な殺傷約2000件、拷問の疑い166件。既に容疑者約600人を特定済みで、ほぼ全員がレイプや拷問、殺人などの罪で告発されたロシア兵だという。

しかし厳密に公平を期すなら、そして物議を醸すことを覚悟で指摘させてもらえば、実はウクライナ軍も民間人の死傷者発生に一役買ってきた。なにしろ都市部に始終展開し、ロシア軍が乗り込んでくれば攻撃を仕掛ける。住民が多い地区で侵略者と交戦すれば、ほぼ確実に民間人にも犠牲が出る。

ウクライナ中部の工業都市クレメンチュクのショッピングセンター「アムストール」に6月27日、ミサイルが撃ち込まれて市民21人が死亡、100人が負傷した事例は衝撃的だった。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はロシアが「見境なく人を殺している」と非難し、「欧州史上最も大胆なテロ攻撃の1つ」と断じた。フランスのエマニュエル・マクロン大統領も「言語道断」と糾弾した。

国際法は、国権による戦争行為にも制限を課している。使える武器の種類や使い方も規制している。ジュネーブ条約などの国際条約は、軍事施設と民間施設を見分けることを義務付けている。無差別攻撃は禁じられ、標的とするには「やむを得ざる理由」が必要とされる。

つまり、民間人の死傷や民間施設の損害を最小限に抑えることは基本的な義務だが、絶対的な義務ではない。どうしても「軍事上の必要性」があれば正当化できる。

例えばスーパーマーケット(あるいは病院や学校など)のような民間施設が軍隊に使用されていて、それを破壊すれば「確実な軍事的利益」がある場合は正当な軍事目標となり得る。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英シェル、BP買収を巡る報道を否定 「市場の憶測に

ビジネス

米5月新築住宅販売、7カ月ぶり低水準 在庫は07年

ビジネス

米経済、関税による「スタグフレーション的」減速へ=

ワールド

米フォード、大半の従業員に週4日出勤義務付け 9月
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係・仕事で後悔しないために
  • 3
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 4
    人口世界一のインドに迫る少子高齢化の波、学校閉鎖…
  • 5
    「子どもが花嫁にされそうに...」ディズニーランド・…
  • 6
    【クイズ】北大で国内初確認か...世界で最も危険な植…
  • 7
    都議選千代田区選挙区を制した「ユーチューバー」佐…
  • 8
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 9
    細道しか歩かない...10歳ダックスの「こだわり散歩」…
  • 10
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 7
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 8
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 9
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 10
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中