最新記事

宇宙探査

NASAが「泳ぐ探査機」を発表 大量展開で生命の兆候を一挙取得へ

2022年7月19日(火)19時00分
青葉やまと

数十台の小型ロボットが、氷の殻を通って下の海に降りてくるイメージ credits: NASA/JPL-Caltech

<車両型や衛星型の探査機に続き、泳ぐタイプのものが登場しそうだ>

次世代の宇宙探査は、携帯サイズの探査機が主役になるかもしれない。NASAのジェット推進研究所(JPL)のエンジニアが、水中を遊泳する小型ロボットを考案した。JPLが「遠い世界の生命を探す」ロボの有力なアイデアとして、コンセプト段階の同機を発表している。

このコンセプトでは、スマホほどのサイズの小型ロボットが多数連携しながら水中を泳ぎ、広い範囲を一挙に探索する。1台ごとのサイズを抑えてあるため、限りある母船のスペースに大量に搭載できる点が革新的だと評価されている。探査対象の星が生命の居住に適しているかのデータを収集し、原始的な生命体がいないか探索する。

木星の衛星であるエウロパなど、水のある衛星に数十台単位で投入することが想定されている。すでに数千万円規模の予算が割り当てられており、今後試作機の製作フェーズへ進む予定だ。

探査機は、JPLでロボット工学を研究するイーサン・シャーラー氏が考案した。NASAの革新的先端コンセプト・プログラム(NIAC)から60万ドル(約8300万円)のフェーズ2資金が与えられている。今後2年間を費やし、3Dプリントによるプロトタイプの作成とテストに当たる計画だ。すでにフェーズ1資金として昨年、12万5000ドル(約1700万円)が支給されていた。

コンセプトは「Sensing With Independent Micro-Swimmers(独立型マイクロ・スイマーによる探査)」と名付けられ、遊泳を意味するSWIM(スイム)の略称で呼ばれている。

複数台の同時探査案、ついに試作段階へ

これまでのNASAの惑星探査プロジェクトは、中核的な探査機を1台または2台投入する形のものが主流だった。2021年には火星探査車のパーサヴィアランスが、小型ヘリコプターのインジェニュイティとともに火星に届けられた。

ただし以前から、複数の探査車を同時に投入した方が広範囲を同時に探査できるとの議論は存在した。2021年に火星に到達した探査車のキュリオシティも、同型機を2〜3機同時に打ち上げる案が議論されていた。

今回のシャーラー氏のアイデアは、この考え方を大胆に拡張し、数十台の規模にまで数を拡大するものだ。ロボットを群れで放つことでより広いエリアを探査できるだけでなく、データを重複して収集することで、測定値の正確性を向上する効果が期待されている。

探査機で運び、専用のロボットで氷を溶かす

SWIMの投入プロセスとしては、まずは母船となる探査機が衛星の表面に軟着陸し、続いてクライオボットと呼ばれる筒状のロボットを真下に向けて放つ。クライオボットの外壁は原子力電池によって熱を帯び、氷を融解しながら堀り進むように設計されている。

クライオボットが水中に到達すると、いよいよ小型ロボットの放出フェーズだ。クライオボットに搭載された数十台のロボットが放たれ、水中で群れとして活動する。探査機とクライオボットはケーブルで結ばれているが、放たれる小型ロボットにケーブルはない。小型ロボットそれぞれがデータの収集にあたりつつ、遠方まで進んだほかの個体からのデータを無線で受け取り、クライオボットに送り返す中継機の役割を果たす。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

中国の対ロ支援、西側諸国との関係閉ざす=NATO事

ビジネス

NY外為市場=ドル、対円以外で下落 第1四半期は低

ビジネス

日本企業の政策保有株「原則ゼロに」、世界の投資家団

ビジネス

米国株式市場=下落、予想下回るGDPが圧迫
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中