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「電柱ゼロ」は幻想か? 必要性、実現可能性、普及のカギを探る

2019年11月14日(木)10時16分
南 龍太(ジャーナリスト)

これらの数値は2017年の国交省資料で少し古い上、「直接埋設は日本に導入実績がないことによる試算」とされており留意が必要だが、遅々たる無電柱化の打開策として、直接埋設に対する国や自治体の期待は大きい。18年に板橋区や京都市で行われた直接埋設の実証実験などを踏まえ、検討が本格化する。

その他にも、電線を浅く埋める「浅層埋設」や、管路のコンパクト化が費用の低減に有効と見込まれる。

さらに、「海外では専用機材による施工や低強度コンクリートを使用した埋め戻し等により、掘削・埋め戻しの迅速化が図られている」(国交省所管の国土技術政策技術総合研究所)など、応用できる先行事例はまだ多くありそうだ。

配電地上機器に活路

諸外国に大きく水をあけられ、無電柱化後進国に甘んじている日本だが、一気に挽回する即効薬はない。一方、自然災害はいつまた不意に襲ってくるかも分からない。整備する総延長の目標が見えている以上、コスト低減に取り組みながら無電柱化の道路を地道に延伸していくほかない。

同時に、無電柱化で使われる「配電地上機器」を有効活用することも一考の余地があるだろう。配電地上機器は、電柱の上方に取り付けられていた「柱上変圧器」(トランス)と同様に機能する変圧設備などが収納されている。

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東電とパナソニックによる地上機器のデジタルサイネージ実証実験、2018年4月、東京都港区で筆者撮影


近年この直方体の箱形の機器にデジタルサイネージ(電子看板)を組み合わせ、商業広告や行政情報を載せるといった実証実験を東京電力やパナソニックが進めている。観光立国を掲げる日本にあっては、訪日外国人向けのガイドや、災害時の多言語による掲示板としての役割も担えるかもしれない。さらに将来的には、普及が進むEV(電気自動車)の急速充電器の機能も加えるといった検討もされている。

そうして防災や景観向上以外にも利点が見いだせれば、無電柱化の普及を後押しすることになるだろう。

南 龍太
「政府系エネルギー機関から経済産業省資源エネルギー庁出向を経て、共同通信社記者として盛岡支局勤務、大阪支社と本社経済部で主にエネルギー分野を担当。また、流通や交通、電機などの業界、東日本大震災関連の記事を執筆。現在ニューヨークで多様な人種や性、生き方に刺激を受けつつ、移民・外国人、エネルギー、テクノロジー、Futurology(未来学)を中心に取材する主夫。著書に『エネルギー業界大研究』(産学社)など。東京外国語大学ペルシア語専攻卒。新潟県出身。お問い合わせ先ryuta373rm[at]yahoo.co.jp」

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