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『表現の不自由展』の議論は始まってもいない

2019年10月9日(水)11時48分
澤田知洋(本誌記者)

17年のドクメンタにはもう1つ、軋轢があった。開催都市カッセルの広場に建てられた巨大な『よそ者と難民のモニュメント』は閉幕後も残される計画だった。これに極右政党などから反対の声が上がり、一度は作品が撤去された。

作者や市を交えた交渉の末、最終的に広場から離れた場所に作品を設置することで解決をみたのは今年の4月。この種の対話は本腰を据えれば数年がかりになる。

津田によると不自由展は事前に内容を発表し、議論が深まった状態で開幕することを目指したが、街宣車の抗議やテロの危険から断念。直前まで詳細は伏せられた。こうした「開催ありき」の空転が作品を「鬼門」の陰に隠れさせ、作家や観客を置き去りにした感は否めない。

その意味で、展示の中止後に一般参加者を交えたフォーラムが開かれたのは前進だ。そこでは『遠近を抱えてPartⅡ』が上映され、作品の是非が語られた。

注目すべきは「(不自由展の)どこが芸術か」など不満の声も聞かれたことだ。たとえ誤解や不満に基づくものだったとしても、主催者側はこうしたことばとじっくり相対すべきだろう。展示自体も善後策が協議され、10 月6~8日に再開が予定されている*。(*10月8日に再開)

作品が鑑賞され、語られることで表現の自由をめぐる議論が活発化する。本来はこの順序のはずだ。本当の議論はまだ始まってもいない。展示再開がその一歩になればいいのだが。

<本誌2019年10月15日号掲載>

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※10月15日号(10月8日発売)は、「嫌韓の心理学」特集。日本で「嫌韓(けんかん)」がよりありふれた光景になりつつあるが、なぜ、いつから、どんな人が韓国を嫌いになったのか? 「韓国ヘイト」を叫ぶ人たちの心の中を、社会心理学とメディア空間の両面から解き明かそうと試みました。執筆:荻上チキ・高 史明/石戸 諭/古谷経衡


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