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韓国・文在寅政権「GSOMIA破棄」の真意

An Unexpected Decision

2019年9月3日(火)17時00分
北島 純(社会情報大学院大学特任教授)

中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は憲法を改正し任期の撤廃に成功し、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領も支持率低下があるとはいえまだ盤石。日本の安倍晋三政権も史上最長政権になろうとしている。ドナルド・トランプ米大統領もロシア疑惑を乗り切り再選を果たしそうだ。

つまり、相当の奇策を打っても何とかなるだけの政治的安定性が周辺国家でそろっている。さらに北朝鮮の金キム・ジョンウン正恩朝鮮労働党委員長もトランプと同様、前例にとらわれることなく、直感的な政治判断で政策を実現させる可能性がある。ある意味で思い付きとも言えるメッセージの送信に端を発して、G20大阪サミット参加直後の米大統領が史上初めて板門店を電撃訪問するという歴史的事象が実現したばかりだ。

これだけ客観的状況が安定しているのは朝鮮戦争後初めてのことである。文在寅はこれを偶然と捉え、やり過ごすような政治家ではない。この状況を千載一遇の好機と捉え、勝負を懸けてきた可能性がある。

東アジアの安全保障体制をあえて揺り動かし、南北統一のための奇策を打ち出し得る土壌をつくろうとしているのかもしれない。南北統一という「偉大な目標」に向けた韓国国内で最大の「抵抗勢力」は、実は長年北朝鮮と敵対してきた韓国軍である。

それに対する仕掛けの戦略的第1弾が今回のGSOMIA破棄であるとしたら、文在寅が見ている風景は、相当遠い先にあるものだろう。

<本誌2019年9月10日号掲載>

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