最新記事

連帯

香港デモと中国の対立が台湾に飛び火、三つ巴の緊張関係に

Taiwan's Offer of Amnesty for Hong Kong Protesters Draws Fire from China

2019年8月21日(水)18時30分
K・ソア・ジェンセン

スマホのライトを点けて国際社会の支援を求める香港デモ参加者(6月26日) Thomas Peter-REUTERS

<台湾の蔡英文総統は、香港デモ参加者の亡命を受け入れたい考えだが、中国がそんなことは許さない>

香港でデモが続くなか、台湾政府が香港のデモ参加者に対して政治的な庇護を与える方針を示し、中国の共産党当局が反発している。

6月から始まった香港の抗議デモは、今もほぼ毎週末ごとに街を揺さぶっている。デモのきっかけは、犯罪容疑者となった香港市民の中国本土への引き渡しを認める「逃亡犯引き渡し条例」改正案。それが通れば、何かの犯罪事実をでっち上げて自分も中国当局に引き渡されかねないと、若者たちが立ち上がった。

<参考記事>中国に特攻できる自爆ドローンなど、加速する台湾の武器開発

7月になると、台湾の蔡英文総統が「香港の友人たち」に、人道的見地から亡命の受け入れを検討すると示唆した。

台湾の市民も香港デモを支持 AFP


台湾の「香港マカオ関係条例」は、「政治的理由により、安全や自由に関して差し迫った脅威にさらされている香港あるいはマカオの住民に対して、必要な支援を提供するものとする」と定めている。

中国政府の国務院台湾事務弁公室の馬暁光報道官は8月19日、台湾総統によるこの申し出を批判した。

「台湾与党の民主進歩党(DPP)は事実から目を逸らし、正邪を混同することで、香港における少数の暴力的過激派による犯罪行為の隠蔽に手を貸し、香港を混乱に陥れる彼らの行為を助長した。そればかりか、今回は彼らに対する保護を申し出た。このようなことをすれば、台湾は『犯罪者をかくまう隠れ家』と化すだろう」と、馬は主張した。

<参考記事>世界が知る「香港」は終わった

香港の英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポストによれは、抗議デモが始まって以来、香港から台湾への移住申請は45%増加しているという。香港の住民が台湾を訪問するにはビザが必要だが、ビザを取得すれば最長1カ月の滞在が可能だ。台湾到着後は、この滞在期間を1カ月延長できる。

中国に狙われる香港と台湾

身柄引き渡し条例の改正案は、香港政府によって事実上廃案にされたが、抗議活動は止む気配がない。報道によると、警察が6月以降に身柄を拘束した人物の数は700名に上る。デモ参加者は、香港トップの林鄭月娥行政長官の辞任、逮捕者の釈放に加えて、警察の暴力追及や民主化を要求している。

台湾は、東アジアで特異な位置を占めている。中国を建設した中国共産党に敗れた国民党が建国し、選挙で選ばれた総統が統治し、実質的な自治を確保している。ただし、中国の共産党政権は台湾を中国の一部と考えており、中国ではなく台湾と国交を結んだ国は20カ国に満たない。アメリカ政府や国連も、公には国家として認めていない。

最近の世論調査によると、中国からの独立を望む独立派と、中国と台湾の統合を目指す統一派の意見は割れている。現在の与党である民主進歩党は独立派で、台湾の表現の自由が中国の脅威にさらされていると警告してきた。

香港は、香港特別行政区基本法によって守られており、2047年までは独自の政府を設立する権利が保障されている。しかし、中国政府は既にこの自由を制約し始めている。

(翻訳:ガリレオ)

20190827issue_cover200.jpg
※8月27日号(8月20日発売)は、「香港の出口」特集。終わりの見えないデモと警察の「暴力」――「中国軍介入」以外の結末はないのか。香港版天安門事件となる可能性から、武力鎮圧となったらその後に起こること、習近平直属・武装警察部隊の正体まで。また、デモ隊は暴徒なのか英雄なのかを、デモ現場のルポから描きます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、中東情勢を楽観 ユーロは2

ワールド

イラン核施設攻撃「中核部分破壊されず」と米情報機関

ビジネス

FRBバー理事、関税による持続的インフレを警戒 利

ビジネス

米住宅価格指数、4月は前月比‐0.4% 22年8月
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
  • 6
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 7
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 8
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 9
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 10
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中