最新記事

香港

住宅街でもデモ、白シャツ集団が警察と談笑、香港最後の正念場へ

Hong Kong’s Endgame

2019年7月29日(月)11時55分
陳婉容(ジャーナリスト)

2017年に行政長官に就任した親中派の林鄭は、この2年間に一般市民に不人気の法律や、巨額のインフラ整備計画を強引に実現させてきた。立法会は親中派が過半数を握っているから、さほど難しいことではない。

こうした林鄭のゴリ押し的なやり方は、雨傘運動後の中国政府の締め付け強化を反映している。返還から20年がたったとはいえ、香港は今も情報の自由な流れを享受し、普遍的な価値観を持つ比較的オープンな街だ。権威主義的な色合いを強める中国政府式のやり方がすんなり通用するはずがなく、衝突は避けられなかったように見える。

それでも、現在の香港の混乱を語るに当たって強調しておきたいのは、林鄭率いる香港政府の対応のまずさだ。

林鄭の政府は、事態がエスカレートする前に逃亡犯条例改正案を取り下げるチャンスを逃した。さらに、警察が行き過ぎた手法を使ってデモを鎮圧したことに、見て見ぬふりをした。6月9日に最初の大規模な平和的デモが起きた直後に改正案を取り下げていれば、現在までの騒乱の大部分は回避することができただろう。

香港政府は、逃亡犯条例改正案の撤回という一点だけを求める平和的な抗議行動が中国の傀儡政権の打倒を目指す「聖戦」に変わるのを助けてしまった。この危機は林鄭らが自ら生み出したものであり、自ら決着をつけるべきだ。だが中国国防省は7月24日、香港政府の要請があれば現地に駐留する中国軍の出動もあり得ると表明した。

香港のエンドゲームは正念場を迎えている。

From thediplomat.com

<2019年8月6日号掲載>

【香港デモ特集】ついに覚醒した香港ピープルパワー

20190806issue_cover200.jpg
※8月6日号(7月30日発売)は、「ハードブレグジット:衝撃に備えよ」特集。ボリス・ジョンソンとは何者か。奇行と暴言と変な髪型で有名なこの英新首相は、どれだけ危険なのか。合意なきEU離脱の不確実性とリスク。日本企業には好機になるかもしれない。

ニューズウィーク日本版 台湾有事 そのとき世界は、日本は
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年8月26日号(8月19日発売)は「台湾有事 そのとき世界は、日本は」特集。中国の圧力とアメリカの「変心」に強まる台湾の危機感。東アジア最大のリスクを考える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米政府、疾病対策センター職員600人以上を解雇=A

ワールド

原油先物は小幅続伸、米在庫が予想以上に減少

ワールド

ウクライナ「安全の保証」、欧州が大部分負担すべき=

ワールド

日本企業、アフリカ成長にらみビジネスアピール TI
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家のプールを占拠する「巨大な黒いシルエット」にネット戦慄
  • 2
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 3
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自然に近い」と開発企業
  • 4
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 5
    夏の終わりに襲い掛かる「8月病」...心理学のプロが…
  • 6
    広大な駐車場が一面、墓場に...ヨーロッパの山火事、…
  • 7
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    習近平「失脚説」は本当なのか?──「2つのテスト」で…
  • 10
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 4
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 5
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 6
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 7
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 8
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 9
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 10
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中