最新記事

ビジネス

ダイソンはなぜEV生産拠点に中国ではなくシンガポールを選んだのか?

2018年10月30日(火)17時29分

ダイソンのロゴ。北京で2018年9月撮影(2018年 ロイター/Damir Sagolj)

サイクロン掃除機などで知られる英家電大手ダイソンの創業者で富豪のジェームズ・ダイソン氏が、シンガポールに電気自動車(EV)の製造工場を建設する計画を発表すると、一部で驚きの声が上がった。

土地が極端に少ないこの都市国家は、平均賃金が世界で最も高い国の1つであるだけではない。米自動車大手フォード・モーターがシンガポール工場を閉鎖して、同国の自動車生産が実質的に終了してから40年近くが経過しているという事情もある。

「コスト基準や、他に自動車工場がないことを考えれば、少々驚きだった」と、自動車業界向けコンサルタントのJDパワーで地域ディレクターを勤めるシャンタヌ・マジュムダール氏は言う。

シンガポールを選んだ理由について、サプライチェーンや市場へのアクセスが良好であり、専門家を容易に採用できる環境であるため、コスト要因を相殺できる、とダイソン氏は23日説明した。

今回の決断を後押しした要因は、他にどんなものがあるだろうか。ライバルの米EV大手テスラ のように、始めから世界最大のEV市場である中国を工場建設地に選ばなかったのはなぜか。

シンガポール工場建設の是非を検証した。

「高コスト」対「手厚い支援」

他の世界都市と比べても、シンガポールの平均賃金(税引き後)は世界最高水準にあると、ドイツ銀は試算している。工業用地は少ないうえに高価で、消費者物価指数も世界で上位にランクしている。

だが、高スキルの技術者や科学者の人材が豊富であることに加え、シンガポール政府はダイソンのようなテクノロジー企業に対して手厚い支援策を講じている。

支援策には、延長可能な5年間の税制優遇措置や、ビジネス効率改善に向けたプロジェクト費用の3割をカバーする政府補助金などが含まれる。シンガポール政府は、ダイソンがこうした支援策を受けるかどうか明らかにしなかった。

シンガポール政府は、同国経済生産の4分の1に満たない製造業の生産性を押し上げようと、ハイエンドなメーカーや、自動化した生産ラインを採用する企業の誘致に力を入れている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ロ首脳が電話会談、プーチン氏はウ和平交渉巡る立場

ワールド

ロ、ウ軍のプーチン氏公邸攻撃試みを非難 ゼレンスキ

ワールド

中国のデジタル人民元、26年から利子付きに 国営放

ビジネス

米中古住宅仮契約指数、11月は3.3%上昇 約3年
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 5
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 6
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 7
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 8
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 9
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 10
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中