最新記事

臓器チップ

「チップ上の心臓」を3Dプリンタで製作:ハーバード大が世界で初めて成功

2016年10月31日(月)16時50分
高森郁哉

 米ハーバード大学は10月24日、3Dプリンタを使って心臓の生体組織を基盤上に再現する「チップ上の心臓(heart-on-a-chip)」を世界で初めて製作したと発表した。米NEWSWEEKなどが報じている。

「マイクロ生理学システム」という研究分野

 学術誌「ネイチャー」のオンライン版に掲載された論文の題は、「複数素材の3次元プリンティングを介する、計器を備えた心臓のマイクロ生理学デバイス」。論文の説明によると、生物医学研究が長年にわたって頼ってきた動物実験と細胞培養にかわり、最近はチップ上に人間の器官の構造と機能を人工的に再現する「マイクロ生理学システム(MPS)」が有望な選択肢になっているという。

【参考記事】「人体」を再現した小さなチップが、医療を変える

 ただし、現在のMPSは通常、センサーが組み込まれておらず、製作には数段階のリソグラフ処理が必要になる。この製作方法には高度な機材が必要で、多大な費用と労力を要する。

ハーバード大のイノベーション

 こうした課題を解決すべく、ハーバード大の研究チームは、圧電効果、高伝導性、生体適合性を備える柔軟な素材で、6種類の機能的なインクを設計。物理的に模倣した薄い心臓組織の自己集合を誘導するマイクロアーキテクチャの内部に、柔らな「ひずみゲージ」センサーを組み込むことが可能になった。製造も、3Dプリンタを使用し、1回の連続したプロセスで完了する。

 デバイスに埋め込まれたセンサーにより、細胞培養環境の中で起きる組織収縮ストレスの電子データを、非侵襲的に読み出すことができるという。具体的には、薬品や毒物に対する心臓組織の反応を、このMPS上でシミュレートできるようになる。

研究の意義

 ハーバード大が開発した新しいデバイスは、埋め込まれたセンサーにより、従来のMPSよりも人体組織をより正確にシミュレートできる。また、製造プロセスが簡素化されたことで、「チップ上の器官」をより効率的に生産できるようになる。これらのメリットにより、新薬と先進医療の研究が加速することが期待される。

 さらに、こうした人工のデバイスが実際の研究分野で利用されるようになれば、実験動物の命をより多く救うことができるだろう。


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏、平和と引き換えに領土放棄せず─側近

ワールド

米ウ代表団、今週会合 和平の枠組み取りまとめ=ゼレ

ビジネス

ECB、利下げ巡る議論は時期尚早=ラトビア中銀総裁

ワールド

香港大規模火災の死者83人に、鎮火は28日夜の見通
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 9
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 10
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中