コラム

アメリカでも大変な「大雪」問題

2014年02月18日(火)12時10分

 2月14~15日にかけての関東甲信における大雪被害ですが、アメリカ東部に住む私には全く他人ごとではありませんでした。とにかく、今年のアメリカ東部は記録的な低温に見舞われる一方で、降雪の回数も降雪量も記録的だったからです。実際問題としてアメリカでは先週、日本が大雪に見舞われる前日の13日の木曜日に大雪が降り、私の住むニュージャージー州中部でも積雪は30センチ近くとなっています。

 今回の日本の大雪では、大きな被害の出た山梨をはじめ、群馬など関東甲信から宮城にかけた地域で、交通が遮断された孤立集落が多数出たこと、峠道の国道などでの大規模な車両の立ち往生、JR中央線での多数の列車の立ち往生など大変な被害が出ています。人的被害も死者が20名近く、間接的被害としては物流網の混乱などを入れれば大きな影響が出ています。

 この被害の構図に関しても、アメリカの今回の「スノーストーム」は似たところがあります。というのは、例年では雪の降ることは珍しい南部のジョージア州からノースカロライナ州に至る地方で、大きな被害が出ているからです。凍結した道路での衝突事故、そしてこれに伴う渋滞や立ち往生が起きたということでは、先週半ばのアメリカでの光景と、その数日後の関東甲信地方での光景は驚くほど似ていました。広域停電が発生したということも同様です。

 例年では降雪の少ない地域では、雪への備えは手薄になりがちです。だからといって、除雪車の用意や、その他の除雪インフラということでは、アメリカ南部にしても、関東甲信にしても今年の冬に大きな被害が出たからといって、大規模な予算をつけるというのは不可能ですし、適当な判断であるとは思えません。除雪車を増備したり、日本の場合ですと日本海側から東北のように融雪システムを整備するというのは、あくまで毎年大雪に見舞われる地方ですから、そうした優先順位になっているのであって、アメリカの南部や関東地方では優先順位は高くないからです。

 雪対策のインフラは仕方ないとして、キメ細かい気象情報の提供ということでは、今回の日本の場合は色々な問題があったようです。この点に関しては、低気圧が海岸線に沿って東上していく中で、どのラインを通るかで積雪量が変わってきたり、「雨になるか雪になるか」のボーダーラインがどうなっていくか、予報が難しいということでは、アメリカ東部の大西洋沿岸低気圧も、日本の太平洋の沿岸低気圧も全く同じです。日本の場合も、以降は色々な工夫がされていくものと思います。

 一方で、一連の「スノーストーム」に関して、ニューヨークでは醜いトラブルも起きています。今年の1月に20年間続いた保守市政を終わらせて、市長に就任したリベラル派のビル・デブラシオ市長は、この冬の度重なる降雪のたびに物議を醸しています。

 まず1月初旬の大雪の際には、マンハッタン島の中心部にある「アッパーイースト」地区での除雪が遅れて大騒ぎになりました。それこそ、今回の東京都心の混乱と同じように、どんどん雪が積もって全く除雪車が来ない。そして大雪の翌日になっても除雪サービスは来なかったのです。怒った市民は市役所に抗議を行う一方で、個人主義の極端なマンハッタンでは珍しく「町内で力を合わせて自主的に除雪活動を行う」光景も見られたのです。

 どうして「アッパーイースト」に除雪が来なかったのでしょう? どうやらデブラシオ市長は「意図的に」行ったようです。意図的に除雪対象から外したのであれば問題ですが、勿論そうではなく、要するに「除雪の順番を変えた」のです。市長は就任前にブルームバーグ市政の下で、市政を監視する「オンブズマン」をやっていたのですが、その際に「貧困地区の除雪が後回しになるのは問題だ」という運動をやっていたのだそうです。そこで市長就任と同時に、自説を実行するために貧困地区を徹底して優先した、これが真相のようです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米政権文書、アリババが中国軍に技術協力と指摘=FT

ビジネス

エヌビディア決算にハイテク株の手掛かり求める展開に

ビジネス

トランプ氏、8月下旬から少なくとも8200万ドルの

ビジネス

クーグラー元FRB理事、辞任前に倫理規定に抵触する
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 4
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 5
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story